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押さえておきたい両立支援のポイント 後編


 「押さえておきたい両立支援のポイント 前編」では、出産・育児、介護、健康問題、病気治療、不妊治療、学び・社会活動などのさまざまなライフイベントと仕事の両立支援に共通する基本的なポイントについて説明しました。

後編では、両立支援の見落とされがちなポイントについてご説明します。前編の基本的なポイントを押さえたうえで、お読みください。

目次

  1. 同僚や上司へのサポート
  2. 上司は、本人の意向を丁寧に確認する
  3. 業務の標準化と業務改善
  4. おわりに

1.同僚や上司へのサポート

 両立支援を進める際には、支援を受ける本人に関心が集中しがちです。しかし、実は同僚や上司へのサポートも非常に重要です。

両立支援では、同僚や上司の協力が欠かせません。例えば、休業や時短、残業免除などを取得する場合、同僚がその方の仕事を一時的に引き継ぐことが多いでしょう。その際に、引き継ぎ業務が育児をしていない人に集中したり、上司が指示しやすい人に偏ったりすることがあります。

一時的にせよ引き継ぎで仕事量が増える方にも、ワーク・ライフ・バランスがあります。偏った事例が度重なると、引き継いだ人の不満が大きくなります。そのような問題が起きないようにするためには、次のような組織的な対応を検討してください。

  • 特定の人に引き継ぐ仕事が偏らないようにする
  • 引き継いだ人の評価やインセンティブを工夫する
  • アウトソーシングや一時的な人員の補充をする
  • 日ごろから業務の標準化・効率化を進める

また、上司が自分で仕事を「巻き取る」こともあるかもしれません。ミドルマネジメント層の仕事量と精神的負担はとても大きいのが常です。巻き取ることで上司自身のワーク・ライフ・バランスが崩れ、身体的にも精神的にも疲弊するばかりでなく、組織運営にも支障が出る可能性があります。このような事態が起きないようにするために、現場の努力任せにせず、会社として組織的な対応を行い、上司や同僚へのサポートにも十分に気を配ってください。

2.上司は、本人の意向を丁寧に確認する

 上司が従業員の支援期間中の仕事やキャリアについて、希望や考えを丁寧に確認しうえでサポートすることが重要です。

育児や介護、治療中でも、仕事やキャリアを大切にしたいと考えている人は多くいます。ですから、もし上司が本人の意向を確認せずに、育児や介護で大変だろうと一方的に慮り、負担の少ない仕事ばかりをアサインした場合、そのことが却って支援を受ける部下のモチベーションを下げてしまうことがあります。

両立支援は、育児や介護、病気治療を行いやすくするだけでなく、従業員が仕事とライフイベントの両方で満足度を高めるための支援 です。仕事の満足度が高まることで、従業員は会社に定着し、長期にわたって貢献してくれます。

上司は従業員の意向をよく聞き、両立支援期間中の求める成果も明確にするようにしてください。従業員が自分の役割や期待される成果を理解し、両立支援制度を最大限に活用できるようにすることで、本人の満足度も企業の生産性向上も期待できます。

3.業務の標準化と業務改善

両立支援の組織的対応策の一つに業務の標準化と業務改善があることを前に触れました。

業務の標準化は、業務を進める手順、方法、クオリティ基準などを統一して誰が行っても同じ成果が得られるようにします。これによって、仕事の属人化を防ぎ、誰でも同じように業務を遂行できるようになるので、相互補完がしやすくなります。

また、業務改善によって、無駄な作業が減り、効率が向上します。その結果、従業員が時間をより柔軟に使えるようになって両立支援にも役立ちます。

業務の標準化や業務改善も、現場任せでは進みません。会社としての方針をたてて計画的に取り組んでいただきたいと思います。

4.おわりに

すべての従業員が、いつかは何らかの両立支援を必要とする可能性があります。そのため、両立支援制度の従業員説明会では「お互いさまの精神が大事である」ことがよく強調されます。このとき留意しなければならないのは、人によって両立支援を必要とする事情、時期、頻度、切迫度が異なるということです。理屈では「お互いさまの精神」を理解できても、今の自分には縁遠い理由で仕事の負担が増えることに納得できないと感じる人も少なくありません。「お互いさまだから」と説き伏せようとする行為は、支援する人に強要することにも繋がり、反感を招く可能性があるので言葉づかいには注意してください。

説明会では、具体的な事例やデータを示すと良いでしょう。例えば、過去に両立支援制度を利用した従業員や支援を行った従業員のエピソードを共有して、それがライフイベントやキャリアにどのように役立ったかを理解を深めます。定期的な研修やワークショップを通じて、従業員全体の理解と協力を促進してください。

まず、このコラムで紹介した会社としての対策や制度の充実を図り、そのうえで両立支援の意義や実際の効果を全従業員に浸透させることで、「お互いさま」の精神が真に根付いた職場環境を築くことができるでしょう。それによって、従業員が安心して働ける環境が整い、企業全体の生産性や従業員満足度が向上することが期待されます。

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(文/阿曽 泰三)
さんぎょうい株式会社/ソリューション事業部 女性の健康とキャリア事業責任者(社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー、女性の健康経営推進員 他)
管理職として、所属員の病気療養や仕事と育児の両立支援を多く経験。
また、国内外で多くの女性同僚や部下のキャリア形成に携わり、女性特有の健康、ライフイベント、ライフキャリアに深い関心を持つ。
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