企業のメンタルヘルス対策|その場しのぎから脱却する体制づくり

「休職と復職を繰り返す従業員にどう接すればよいかわからない」「メンタルヘルスの不調にどこまで踏み込んで聞くべきか判断がつかない」――。企業のメンタルヘルス対策に頭を悩ませる人事・総務のご担当者は少なくありません。
こうした悩みを根本から解消する鍵は、目の前のケースに都度対応する「その場しのぎ」から脱却し、いつでも相談できる専門家とともに、長期視点でメンタルヘルス対応の体制を整えることにあります。
本コラムでは、休復職対応の現場で起こりがちな課題と、その場しのぎから脱却するための体制づくり、そして心理士によるコンサルティング支援の活用方法をご紹介します。
目次
- メンタルヘルス不調者の増加|企業を取り巻く現状
- 制度は整いつつも、実施されているメンタルヘルス対策は道半ば
- 企業のメンタルヘルス対策でおさえたい「3つの予防」と「4つのケア」
- 企業のメンタルヘルス対応で体制が整いにくい3つの理由
- 休職開始から復職までの基本的な流れ
- 心理士との連携で実現する、継続的なメンタルヘルス対応
- コンサルティングサービス導入事例
- まとめ|一人で抱え込まず、専門家と一緒に体制を整えませんか
- Q&A


1.メンタルヘルス不調者の増加|企業を取り巻く現状
職場におけるメンタルヘルス不調者は増加傾向にあり、メンタルヘルスの不調により1か月以上休業した労働者がいる事業所は全国の10.2%を占めています(厚生労働省 令和6年度)。
また、厚生労働省の発表によると、令和6年度の脳・心臓疾患による労災の支給決定件数が241 件であることに対し、精神障害による労災の支給決定件数は1,056 件でした。この精神障害による労災については、前年度から173件増加しています。
身体疾患は医療技術の進歩により早期発見・治療が可能になってきた一方、精神障害については、企業内での未然防止や対応がまだ十分に浸透していないのが現状です。
2.制度は整いつつも、実施されているメンタルヘルス対策は道半ば
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.2%。そのうち最も多い取り組み内容は「ストレスチェックの実施」で、65.3%を占めます(厚生労働省 令和6年度)。
ストレスチェックは50人以上の事業場で義務化されており、令和7年度の労働安全衛生法改正により、3年以内には50人未満の事業場でも義務化される予定です。従業員が自分自身のストレスを理解しセルフケアを行うという個人対応と、集団分析を通じた職場環境改善を検討という組織における対応が、制度面からも後押しされています。
一方で、同調査では以下のような実態も明らかになっています。
· 管理監督者への教育研修・情報提供:29.0%
· メンタルヘルス対策の計画策定と実施:18.7%
· 産業保健スタッフへの教育研修・情報提供:12.7%
つまり、ラインケア教育・体制構築・産業保健スタッフの知識向上のための施策や連携といった持続的な効果が期待できる対応や根本的な対応までは、多くの企業が着手しきれていないことがわかります。
3.企業のメンタルヘルス対策でおさえたい「3つの予防」と「4つのケア」
厚生労働省が示す「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、企業・組織におけるメンタルヘルス対策のロードマップとなるもので、企業の取り組むべき「4つのケア」「3つの予防」について示されています。
「4つのケア」はセルフケア、ラインケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアを指し、個人から組織、そして組織の内外へとケアが体系的に行われるように示されています。
セルフケアは、労働者自身が、自分のストレスに気づき、適切に対処する力を身につけることを指します。ラインケアは、管理監督者が、職場環境の問題点を把握し改善をはかるといった職場全体への働きかけと、部下の不調への気づき・声掛け・相談対応・職場復帰支援等を行うという従業員個人への対応が含まれます。事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、人事労務担当者、産業医、保健師などが連携して行う研修の施策や相談対応を指します。事業場外資源によるケアでは、外部EAP、医療機関、専門相談機関などを活用し、社内だけでは対応が難しいケースへのサポートを得ることができます。
「3つの予防」はメンタルヘルスの不調に対し、段階的に行うべき予防を指します。
一次予防は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ取り組みです。ストレスチェックで職場集団の状態を把握することも一次予防です。二次予防は、不調の早期発見・早期対応です。上司による気づきと対応が重要になります。三次予防は、不調が生じた後の支援と再発防止です。休職対応、職場復職支援、職場復帰後のフォローなどが含まれます。
この考え方は、事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施の進め方の根幹となります。
このように、「3つの予防」と「4つのケア」を理解することにより、組織内に足りない取り組みや、強化すべきポイントが見えやすくなります。
企業でメンタルヘルス対策に取り組む意義のうちの一つは、従業員のこころと体の健康を守る「安全配慮義務」を果たすという法令順守であり、リスクマネジメントです。そして、メンタルヘルス対策の意義はこうしたリスク回避の「守り」の側面だけではありません。企業にとって「攻め」の経営施策としての価値も持っています。
つまり、心身ともに健康で働ける環境は、休職や離職の防止につながり、採用・育成にかかるコストを抑制します。また、不調を抱えながら出勤し本来のパフォーマンスを発揮できない状態(プレゼンティーズム)を減らすことで、組織全体の生産性向上が期待できるということです。従業員が安心して働ける職場づくりは、優秀な人材の定着・確保という点でも企業の競争力を支えます。
さらに近年は、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に取り組む「健康経営」への注目が高まっています。こうした取り組みは、健康経営優良法人の認定など対外的な評価にもつながり、企業のブランドイメージや採用力の向上に寄与します。メンタルヘルス対策は、コストではなく、組織の持続的な成長を支える「投資」として位置づけられるのです。

図1:3つの予防

図2 4つのケア
4.企業のメンタルヘルス対応で体制が整いにくい3つの理由
①休復職対応の個別性が高い
メンタルヘルスの不調や精神科領域の疾患は、症状や治療経過の個別性が高く、休職期間や復職時期も一律には決められません。社内規程があっても、結局は個別ケースに合わせた対応となり、「前例の応用」が効きにくいことが、人事総務担当者にとっての困難さを増幅させます。
②担当者にメンタルヘルス専門知識が十分にない
人事総務に配属された方が、メンタルヘルスの専門知識を初めから備えているとは限りません。従業員のセルフケア知識や管理職のラインケア知識もまばらな場合、休復職対応の判断基準を社内だけで決定することは困難を要することがあります。
その結果、担当者が必要以上に休職者へ配慮しすぎたり、疲弊してしまったりするケースも見られます。
③50名未満の事業場では専門家が身近にいない
従業員50名未満の事業場には産業医の選任義務がなく、すぐに相談できる専門家がいないことも珍しくありません。「この対応で本当に正しいのか」と疑問や葛藤を抱えたまま、休職者対応に追われている人事総務担当者は多いのが実情です。
5.休職開始から復職までの基本的な流れ
従業員が医療機関を受診し主治医から診断書を受け取った場合、上司は内容を踏まえて今後の対応を本人とよく話し合う必要があります。診断書に休職の判断が記載されていれば、基本的には指示に従い休職に入ることが望ましいでしょう。
休職開始時の手続き説明は人事総務が担うことが多いですが、この場面では体調や症状に深く立ち入らず、事務的な確認にとどめることが、従業員の負担軽減につながります。また、原因を解明しようとする働きも、不調である従業員にとっては負担になる可能性が高いため、この時点での不調の原因やストレス要因に触れる話題は避けることが望ましいでしょう。
特に重要なのが、連絡窓口の一本化です。複数の部署から異なる説明が届くと、メンタルヘルスの不調により情報整理が難しい状態の従業員を混乱させてしまいます。「誰が何を担当するか」「どんな用件で連絡するか」を、簡潔に整理して伝えましょう。
休職中は、社内規定と業務状況に応じて連絡頻度を決め、治療に専念できる環境を整えます。症状改善後は、主治医の診断書と産業医面談をもとに会社が復職判定を行います。
▼復職時の進め方は関連コラムでも解説しています
· [職場復帰を成功させるポイント]
· [産業医が復職を認めない5つのケースとは?復職支援でやるべきことも解説]
6.心理士との連携で実現する、継続的なメンタルヘルス対応
休復職対応では、ケースごとの判断に迷う場面が必ず発生します。そんなときにいつでも相談できる心理士が外部にいることは、人事担当者の大きな支えになります。
さんぎょうい株式会社のメンタルヘルスコンサルティングサービスは、以下の4つのメニューで、企業の課題やフェーズに応じた支援を提供しています。
| サービス | 主な内容 |
| 基本サービス | 月額サービス。人事総務担当者からの相談(メール・電話)に対し何回でも対応 |
| ストレスチェック集団分析活用サービス | 集団分析結果の解釈/職場環境改善ツールのご紹介/受検率向上のアドバイス/具体的アクションプランのご提案 |
| ケース・コンサルテーション | 対応困難な個別案件に関する関係者への助言/必要時の本人面談 |
| プロジェクト・コンサルテーション | メンタルヘルス体制の構築・運用サポート/緊急時の特別対応 |
📩 まずはお気軽にご相談ください サービス詳細・お問い合わせはこちら → https://www.sangyoui.co.jp/services/mental/

7.コンサルティングサービス導入事例
事例1:従業員50名規模/製造業A社(基本サービス+ケースコンサルテーション)
導入前の課題 年間2〜3名のペースでメンタルヘルスに関連する不調者、休職者が発生していました。厚生労働省の労働安全衛生調査(令和6年度)によると、メンタルヘルス不調により休職した労働者は全国の労働者のうち0.5%であり、A社のように50名規模で年間2~3名のペースの休職者発生の状況は、平均と比較して多い割合であると言えます。また、A社においては休職から復帰してもまた休職に至るケースが続いていました。休職期間満了による退職も多く、休職中の関わり方や復帰時のフローが社内で確立されていませんでした。
実施内容と効果 基本サービスを導入し、人事総務担当者が休職中の従業員対応で迷った段階で、都度、メールや電話で心理士へ問い合わせができる体制を構築。休職を繰り返す従業員については、上長と人事総務担当者を交えたケース・コンサルテーションで個別の見立てと対応方針を整理しました。
事例2:従業員80名規模/サービス業B社(プロジェクト・コンサルテーション)
導入前の課題 職場復帰後の時短勤務や業務軽減について、「内容や期間が適切なのか判断できない」という相談からスタート。社内規程はあったものの判断基準がなく、「なんとなく」で運用されており、制度が形骸化していました。受け入れ側の従業員へのフォローや業務分担の調整もあいまいな状態でした。
実施内容と効果 現行の社内規程を心理士と一緒に確認し、従業員にとって復帰しやすい段階的なシステムを再設計。運用時には、規定された内容に沿いながらも個別性を考慮するポイントを都度アドバイスし、現場と制度のズレを解消しました。
導入企業様からは「すぐに相談できて安心した」「ちょっとしたことでも不安を解消できることで、安心して業務に取り組める」とのお声をいただいています。
8.まとめ|一人で抱え込まず、専門家と一緒に体制を整えませんか
メンタルヘルス不調者が増加する今、企業のメンタルヘルス対応は、目の前のケース対応と、長期視点での体制づくりの両輪が欠かせません。人事総務担当者の負担を減らすことは、結果として労働安全衛生環境全体の底上げにつながります。
「休職者対応に自信が持てない」「制度はあるが運用に迷う」「相談できる専門家が社内にいない」――。そんな課題をお持ちでしたら、まずはいつでも相談できる外部のパートナーを持つことから始めてみませんか?
🔗 メンタルヘルスコンサルティングサービスの詳細・お問い合わせはこちら https://www.sangyoui.co.jp/services/mental/
9.Q&A
Q. 企業によるメンタルヘルス対策の具体例は?
A.ストレスチェックの実施、メンタルヘルスに関する研修の実施、情報提供、相談窓口の設置などです。
Q.メンタルヘルスに関する研修はどのようなものがありますか?
A.全従業員向けのセルフケア研修、管理監督者向けのラインケア研修などが代表的です。
Q. メンタルヘルス不調のサインにはどのようなものがありますか?
行動面では、勤怠の不良や業務パフォーマンスの変化が挙げられます。心の変化にはイライラや落ち込み、抑うつ的な気分が起こることがあります。身体の変化としては、頭痛やだるさなどが挙げられます。
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Q.メンタルヘルス対策の相談窓口はどこにありますか?
A.企業においては、人事や総務が担当する社内スタッフによる相談窓口、もしくは医療機関や外部EAPといった事業場外における相談窓口が挙げられます。
公的な相談窓口としては、厚生労働省のこころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトにて、電話相談、メール相談、SNS相談が可能です。
このほか、従業員ご本人向けの公的窓口としては、地域の「精神保健福祉センター」での相談、ハラスメントや労働条件に関する「総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・労働基準監督署)」などがあります。また、企業・人事担当者向けの窓口としては、産業保健スタッフへの支援や事業者向けの相談に対応する「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」が各都道府県に設置されています。
相談窓口は「誰が・何を相談したいか」によって適した先が異なります。人事担当者がケースごとの判断に継続的に相談できる外部パートナーをお探しの場合は、当社のメンタルヘルスコンサルティングサービスもご活用いただけます。
Q.メンタルヘルスケアにおける「3つの予防」と「4つのケア」とは何ですか?
A.「3つの予防」とは、企業で取り向く段階的な予防内容を指します。一次予防は、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ取り組みです。二次予防は、不調の早期発見・早期対応です。三次予防は、不調が生じた後の支援と再発防止です。
「4つのケア」とは、セルフケア、ラインケア、社内の産業スタッフによるケア、事業場外におけるケアを指します。
Q.メンタルヘルスケアの重要性や企業にとってのメリットは何ですか?
A.企業には、従業員の心と身体の健康を守る安全配慮義務という法律上の責任があります。安全配慮義務を守ることは、従業員の安心感や働きがい、モチベーションアップにつながります。ひいては組織全体の健全な発展につながるメリットがあります。加えて、休職・離職の防止による採用コストの抑制や、組織全体の生産性向上といった「攻め」のメリットも期待できます。近年は、従業員の健康管理を経営的視点で行う「健康経営」への注目も高まっており、対外的な評価や企業ブランド・採用力の向上にもつながります。
【引用・参考】
・厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」
・厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」
・労働政策研究・研修機構(JILPT)国内トピックス(ビジネス・レーバー・トレンド 2023年10月号)
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大学院修了後、医療・教育・行政分野で心の専門職として従事。実務経験は10年以上。
現在は、従業員への心理面接を中心に、企業向けにメンタルヘルス支援を提供。
心理的支援に加え、ストレスマネジメントやセルフケアの観点から身体面のケアにも深い関心を持つ。
















