「感覚」で守る時代は終わった ― 2026年法改正を受け、全国9拠点で実施した熱中症研修レポート

「感覚」で守る時代は終わった ― 2026年法改正を受け、全国9拠点で実施した熱中症研修レポート
2026年、熱中症対策は「努力義務」として企業に明確に求められる時代に入りました。今年さんぎょうい株式会社では、ある建築関連企業様の全国9拠点で熱中症対策研修を実施。判例から逆算した「感覚に頼らない仕組みづくり」を軸に、座学60分+人形を使った実技30分という構成で、現場で本当に動ける知識と行動を体験していただきました。本コラムでは、その実施報告と現場で見えてきた課題を共有します。
昨年からのアップデート ― 「判例」から対策を絞り込む
弊社では昨年も同様の研修を実施していますが、今年度は2026年の法改正を受けて内容を大幅にアップデートしました。最大の変更点は、努力義務化に伴って蓄積されてきた判例を踏まえ、「企業として最低限押さえるべき対策」を絞り込んだ点です。
熱中症対策は、ともすれば「水分をこまめに」「休憩をしっかり」といった精神論に流れがちです。しかし判例で問われるのは、企業が事前にどのような仕組みを用意していたか、いざという時に判断や行動が遅れない体制を作っていたかという点です。つまり、現場担当者の経験や感覚に依存した運用は、もはやリスクそのもの。今年の研修では、この「仕組み化」を一貫したテーマに据えました。

法改正と「4つの問い」 ― 座学60分で押さえた要点
座学では、まず熱中症対策の法改正と義務化の流れを整理し、企業として押さえるべき要点を共有しました。研修の最後に投げかけたのは、次の4つの問いです。
- WBGT(暑さ指数)を「測って」いるか
- 対応手順と連絡先を「決めて」いるか
- 様子を見ずに「救急」を呼べるか
- 高年齢労働者に「必要な配慮」をしているか
この4つは、いずれも「やっているつもり」になりやすい項目です。WBGTは体感ではなく数値で測ること、対応手順は誰が見ても同じ判断ができるよう文書化すること、そして「もう少し様子を見よう」という判断こそ最も危険であること。これらを徹底できる仕組みがあるかどうかが、企業の備えの本質だとお伝えしました。
実技30分で見えてきた「現場のリアル」
今年の研修で最も手応えがあったのが、人形を使った30分の実技です。「現場で人が倒れている」という想定のもと、熱中症対策キットを使った応急処置から、応援要請、救急要請、救命に至るまでの一連の流れを体験していただきました。
そこで浮き彫りになった現場の課題は、想像以上に多岐にわたります。たとえば救急バッグ。「現場のどこかにある」ことは知っていても、いざという時に近くになく、取りに行く時間がかかる。さらに中身を知らなければ、開けても使えません。倒れている人を前にすると、何から動けばよいか分からなくなるというのも共通の声でした。応援を呼ぼうにも、対象者から離れることはできない。声を上げて誰かを呼ばなければなりませんが、その「誰か」が決まっていなければ動きは止まります。
救急車の誘導も大きな論点でした。建設現場では、救急隊が現場の奥まで入ってこられるとは限らず、誘導役が必須です。さらに元請けと協力会社という立場の違いから、現場で救急車を呼びにくい空気が生まれることもある、というのは現場を回って初めて見えた実情でした。
加えて、屋根の上での作業中に倒れた場合、鉄板はフライパンのように熱くなっており、救助そのものが困難になります。自社の社員同士が現場で一緒に作業することはほとんどないため、互いの動きを把握しづらいという構造的な課題も確認できました。AEDが設置されていない現場も少なくないため、新しい現場に入った際には、近隣のAED設置場所を事前に確認しておくことも合わせてお伝えしています。
これらはすべて、「個人の意識」では解決できません。誰がどう動くかをあらかじめ決め、道具の位置と中身を共有し、誘導役を含めた役割分担を仕組みとして整えること。これが、判例が企業に求めている水準だと言えます。
50代以上の労働者への配慮 ― 加齢で何が変わるのか
今年特に時間を割いてお伝えしたのが、令和8年に示された「高年齢労働者の労働災害防止指針」に関する内容です。研修では「50代以上の作業員に、若手と同じ管理をしていませんか?」という問いから入りました。
加齢に伴い、体内の水分貯留量は減少し、脱水状態に陥りやすくなります。発汗機能や体温調節機能も低下し、自覚症状が出にくくなる傾向もあります。さらに、生活習慣病の治療薬など服薬の影響で脱水が進みやすいケースもあります。
特に強調したのは、加齢により心血管の予備能力が低下している50代以上では、熱中症をトリガーとして脳卒中や心筋梗塞を同時に発症するリスクが極めて高いという点です。「ちょっと休めば戻る」という経験則は、年齢が上がるほど通用しなくなります。ベテラン作業員ほど「自分は大丈夫」という感覚を持ちやすいからこそ、企業側が配慮の仕組みを整える必要があります。
個人でできること ― 「言わずに頑張る」が最大のリスク
仕組みづくりと並行して、個々の作業員に伝えたのが、毎日の健康チェックシートの活用です。睡眠、食事、体調を朝の段階で見える化し、自分自身と周囲が状態を把握できるようにする。シンプルですが、これを形骸化させずに運用できるかが分かれ目になります。
そして最も強くお伝えしたのが、「調子が悪い時に言わずに頑張る方が、はるかにリスクが高い」ということです。我慢が美徳とされやすい現場文化のなかで、不調を口に出せる雰囲気を作るのは、管理者側の責任でもあります。

おわりに ― 仲間の命を守れる働き方へ
今回の研修は全国9か所で実施し、新入社員向けには内容を一部改変して、働く人の健康管理に必要な基礎知識と、なぜ熱中症対策が必要かという根本からお伝えしました。各支社で実際に熱中症対応を経験された方が複数いらっしゃったことは、現場のリアルを改めて実感する機会にもなりました。
だからこそお伝えしたいのは、「誰か一人ができればよい」のではなく、自分も助ける側、あるいは助けられる側として、知識と動きを身につけておくことの重要性です。この夏、現場の皆さまがご自身の健康管理だけでなく、仲間の命も守れる働き方をしていただけることを、心から願っています。
法改正対応にお悩みの企業様にとって、本コラムが「何から手を付ければよいか」のヒントになれば幸いです。
【参考リンク】
- 日鉄物産システム建築、酷暑に備えた熱中症対策を強化!若手発案の「ちるちるハッピータイム」を今年も継続実施 | 日鉄物産システム建築株式会社のプレスリリース
- 研修事例紹介:2025年法改正に対応した熱中症対策の実践
- 熱中症対策義務化に企業はどう対応すべきか|現場で実効性を高めるポイント
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