労働安全衛生法の主な改正の歴史と人事総務が押さえるべきポイント【保健師監修】

労働安全衛生法(安衛法)は、1972年の制定以来、時代の変化や新たな労働災害リスクに対応するかたちで繰り返し改正が行われてきました。
近年では化学物質管理の厳格化、ストレスチェック制度の導入・拡充、働き方改革に伴う産業医機能の強化など改正内容は多岐にわたっています。
さらに、2025年5月には新たな改正法が公布され、2026年1月から段階的に施行が始まっています。
なお、このような法改正の流れや安全衛生管理の基礎を正しく押さえるためには、国家資格である「衛生管理者」の資格取得を目指すことで理解を深められるでしょう。資格取得を検討されている方もぜひ参考にしてください。
本記事では、労働安全衛生法の基本的な概要を押さえたうえで企業が対応すべきポイント、2026年以降に施行される最新の改正内容、直近の改正ポイント、そしてこれまでの主要な改正の歴史までを体系的に解説します。
【保健師から】
日本の産業構造は、第一次・第二次産業中心から第三次産業中心へと移行してきました。
そのような変化に伴って労働災害の内容も「転倒」「腰痛」「メンタル」など多様化しているため、従来の「規制中心」の安全管理から、各事業者の取り組みによる「自律的安全管理」へと制度転換が図られています。
健康経営の広がりも背景に、企業主体による健康管理の重要性が増している状況だと言えます。
【目次】
- 労働安全衛生法とは
- 労働安全衛生法の改正に企業が対応するためのポイント
- 2026年以降に施行される改正の概要
- 2024年〜2025年の主な改正ポイント
- 労働安全衛生法の主な改正の歴史
- 労働安全衛生法の改正に関するよくある質問(FAQ)
- まとめ:労働安全衛生法の改正を正しく理解して安全で健康な職場づくりを推進しよう


1. 労働安全衛生法とは
労働安全衛生法の基本的な定義、目的、適用範囲について解説します。
まずは法律の全体像を理解したうえで、労働基準法との関係や、事業者に課せられる主な義務の概要を確認しましょう。
労働安全衛生法の目的と制定の背景
労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的として1972年に制定された法律です。
高度経済成長期に労働災害が多発し、年間の死亡者数が6,000人を超える深刻な事態に陥ったことを背景に、労働基準法の安全衛生関連規定を独立・拡充させるかたちで成立しました。
制定後は労働災害による死亡者数が大幅に減少しており、時代の変化に合わせて継続的に改正が行われている状況です。
参考:労働開発研究会|労働法学研究会報 安衛法制定・施行45年を経て
労働基準法との違い
労働基準法が労働時間・賃金・休日といった労働条件全般を規定する法律であるのに対し、労働安全衛生法は職場の安全衛生管理に特化した法律です。もともと労働基準法の第5章に含まれていた安全衛生に関する規定を、より専門的かつ包括的に整備するために独立させた経緯があります。
両法は互いに補完し合う関係にあり、企業はいずれの法律に対しても遵守義務を負っている点がポイントです。
事業者に課せられる主な義務
労働安全衛生法では、事業者に対して多岐にわたる義務が課せられています。ここでは代表的な義務の概要を確認します。
安全衛生管理体制の整備
事業場の規模や業種に応じて、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医などの選任が義務づけられています。常時50人以上の労働者を使用する事業場では衛生委員会の設置も必要です。管理者等を選任しなかった場合には罰則が科される点に注意しましょう。
危険・健康障害の防止措置
爆発性・発火性のある物質や有害なガス・粉じんなどによる危険・健康障害から労働者を守るため、事業者は適切な防止措置を講じなければなりません。作業場所での転落防止や、作業環境の安全確保措置も含まれます。
安全衛生教育の実施
新たに雇い入れた労働者および作業内容を変更した労働者に対して、安全衛生教育を実施する義務があります。職長や作業指揮者など現場の指導・監督者への教育も必要で、パートやアルバイトなど短時間勤務者も教育の対象に含まれます。
健康診断・ストレスチェックの実施
事業者は雇入れ時および定期的に労働者の健康診断を実施する義務があります。また、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェックの実施が義務づけられている点も義務づけられています。50人未満の事業場は現時点では努力義務ですが、2025年5月公布の改正法により義務化が決定しました。施行日は公布後3年以内に政令で定める日(最長2028年5月頃)とされており、具体的な日程は今後政令で確定する見通しとなっています。
参考:厚生労働省|労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて
2. 労働安全衛生法の改正に企業が対応するためのポイント
法律の基本を押さえたところで、次に重要なのは法改正への実務的な対応です。改正内容を把握するだけでなく、社内体制を整備し継続的に対応していくためのポイントを整理しました。
法改正の情報を継続的に収集する体制づくり
労働安全衛生法は頻繁に改正が行われるため、厚生労働省の公式サイトや各種専門メディアを定期的にチェックし、最新情報を収集する仕組みをつくることが重要です。安全衛生委員会の議題として法改正動向を定例的に取り上げることも有効な方法でしょう。
社内規程・マニュアルの見直しと従業員教育
法改正に応じて、安全衛生管理規程や作業手順書、健康管理に関する社内マニュアルを速やかに見直す必要があります。改正内容を現場に浸透させるためには、管理監督者向けの研修や全従業員への周知活動を計画的に実施することが不可欠です。
産業医・保健師など専門家との連携
法改正への対応においては、産業医や保健師などの産業保健スタッフとの連携が極めて重要です。ストレスチェック制度の運用、長時間労働者への面接指導、高年齢労働者の健康管理など、専門的な知見を要する領域が増えているためです。外部の産業保健サービスを活用することで、社内リソースが限られる中小企業でもスムーズな対応が可能となるでしょう。
3. 2026年以降に施行される改正の概要

対応のポイントを押さえたうえで、次に確認すべきはこれから対応が必要になる改正内容です。
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法は、2026年1月から段階的に施行されます。ここでは、その全体像を概観しましょう。
個人事業者等に対する安全衛生対策の推進(2026年4月〜)
今回の改正の大きな柱のひとつとなっているのが、個人事業者等(一人親方・フリーランス等)を労働安全衛生法による保護の対象および義務の主体として明確に位置づけた点です。
2026年4月1日からは、混在作業場所における元方事業者の措置義務の対象が「労働者」から「作業従事者(個人事業者等を含む)」に拡大されます。
なお、個人事業者等自身に直接義務が課される規定(構造規格・安全装置を備えない機械の
使用禁止、特定機械の定期自主検査、危険・有害業務に就く際の安全衛生教育の受講など)
の施行日は2027年4月1日となります。
今回の法改正は、これまで「労働者(雇用されている人)」のみを対象としていた安全のネットワークを、「現場で働くすべての人(一人親方・フリーランスを含む)」これからも続く歴史的な転換点です。
2026年4月〜:元請け(注文者)の義務が拡大
これまで元請け業者が守るべき対象は「自社や下請けの労働者」に限定されていました。 2026年4月からは「同じ場所で働く一人親方やフリーランス」も、元請けが安全を守るべき対象(作業従事者)に含まれます。
【事例:建設現場やイベント会場での集中作業】
【これまでのケース】
元請け企業が安全通路を確保したり、立入禁止区域を設定したりする際、対象は主に「労働者」でした。
【2026年4月以降のケース】
元請け事業者は、現場にいる親方に対しても、避難訓練への参加要請や、危険場所への立入禁止を周知し、事故発生時の連絡体制の整備などを行う義務が生じます。
【ポイント】「やってるかどうか」ではなく、「その場にいて作業をしているかどうか」が判断基準になります。
2027年4月〜:個人事業者「自身」にも義務が発生
2027年からは、一人親方やフリーランス自身が「自分の安全を守る責任主体」として、法律上の義務を負うことになります。
- 【事例:特定の機械や危険業務を行う場合】
機械の使用:自分で所有するバックホウ(パワーショベル)や高所作業車などについて、特定機械の定期自主検査(車検のようなもの)を実施する義務が個人に課されます。 - 安全教育:足場の組み立てやチェーンソーを用いた伐採などの危険・有害な業務に従事する場合、これまでは「自己責任」で済まされていた側面もありましたが、今後は法令に基づいた安全衛生教育の受講が義務化されます。
フリーランスや一人親方が増えるなかで、これまでは「誰が安全を守るのか」が曖昧なグレーゾーンが存在していました。2026年からの改正は、「元請けが場所の安全を整える(2026年〜)」「個人が自分の装備・教育を整える(2027年〜)」という両輪で、働くすべての人の安全を確保する仕組みです。
ストレスチェック義務化の全事業場への拡大(施行日は今後政令で規定)
これまで常時50人以上の事業場に義務づけられていたストレスチェックが、50人未満の事業場にも拡大されるため、小規模事業場にとっては実施体制の構築が新たな課題となります。
高年齢労働者の労災防止措置の努力義務化(2026年4月〜)
高年齢労働者の労働災害増加を受け、事業者に対して災害防止のための対策を講じることが努力義務となります。改正労働安全衛生法第62条の2に基づき、厚生労働省が「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公示しており(2026年4月1日適用)、従来のエイジフレンドリーガイドラインに代わる新たなルールとして、より実効性のある取り組みが事業者に求められます。
化学物質管理の履行確保強化(段階的施行)
営業秘密成分の代替化学品名等による通知制度の創設、個人ばく露測定の有資格者による実施義務化、SDS通知義務違反に対する罰則の新設など、化学物質管理の履行確保がさらに強化されます。
| 項目 | 施行日 |
| 営業秘密成分の代替化学品名等の通知 | 2026年4月1日 |
| 個人ばく露測定の精度担保(有資格者による実施義務化) | 2026年10月1日 |
| SDS通知義務違反に対する罰則の新設 | 公布後5年以内に政令で定める日 (最長2030年5月頃) |
今回の改正により、事業者は「法律に列挙された物質だけ管理すればよい」という姿勢では対応できなくなります。自社で使用する化学物質についてSDSを確実に確認し、専門家の知見も活用しながら、事業場ごとにリスクを評価・管理するという、より自律的な管理体制が求められるようになります。
4. 2024年〜2025年の主な改正ポイント

直近の2024年・2025年に施行された改正には、化学物質管理のさらなる強化や電子申請の義務化など、多くの企業が対応を求められる内容が含まれています。
ここでは、実務上特に影響の大きいポイントを確認しましょう。
化学物質のラベル表示・SDS通知対象物質の拡大(2024年4月〜)
2024年4月の改正により、ラベル表示およびSDS(安全データシート)の交付義務を負う化学物質の範囲が大幅に拡大されました。
事業者はSDSの含有量表示の適正化も求められており、化学物質のリスクをより正確に把握して安全確保を図る必要があります。
作業環境測定結果が第3管理区分の事業場への措置強化(2024年4月〜)
作業環境測定の結果、第3管理区分(改善が必要な状態)と評価された事業場に対する措置が強化されました。
有効な呼吸用保護具の使用とその適切な装着の確認、保護具着用管理責任者の選任と管理体制の整備などが求められます。
労働安全衛生関係手続きの電子申請義務化(2025年1月〜)
2025年1月より、定期健康診断結果報告をはじめとする一部の労働安全衛生に関する手続きについて、電子申請が原則義務化されました。
事業主の事務負担軽減とヒューマンエラーの削減が主な目的です。
参考:厚生労働省山形労働局|2025年1月1日より以下の手続について、電子申請が原則義務化されました
リスクアセスメント対象物質のさらなる追加・熱中症対策の強化(2025年)
2025年4月にはリスクアセスメント対象物質がさらに追加され、対象となる化学物質の範囲が大きく拡大しました。
また、2025年6月からは熱中症対策に関する規定が強化され、事業者が講じるべき措置が法的に明確化されています。暑さや水分不足を感じにくい高年齢労働者への配慮も含め、WBGT値の測定・管理、休憩場所の整備、緊急時対応マニュアルの整備といったハード・ソフト両面の対策が求められます。
2026年以降はこれらの体制が整っていることが前提となるため、未対応の企業は早急に着手する必要があるでしょう。
高年齢労働者への配慮(エイジフレンドリー)
前述の「高年齢者の労働災害防止のための指針」とも関連しますが、シニア層は熱中症のリスクが特に高いため、個別の健康管理やWBGT値の慎重な適用が求められるようになっています。2026年は、「知らなかった」「うっかりしていた」では済まされない段階です。
- ハード面:空調服、WBGT測定器、冷房付き休憩所の整備
- ソフト面:報告ルートの徹底、緊急時マニュアルの再確認
これらをハード・ソフト両面でセットで実施することが、法令遵守の観点から企業に求められています。
5. 労働安全衛生法の主な改正の歴史
労働安全衛生法は制定以来、社会情勢や産業構造の変化、新たな労働災害リスクの顕在化に応じて改正が重ねられてきました。ここでは、企業の人事労務担当者が特に押さえておくべき主要な改正を時系列で振り返ります。
2022年改正|化学物質管理の抜本的見直し(自律的管理への移行)
2022年の改正では、化学物質管理の仕組みが大きく転換されました。
従来の個別規制型(特定の化学物質ごとに詳細なルールを定める方式)から、事業者が自ら化学物質のリスクを評価し対策を講じる「自律的管理」への移行が進められたのです。
化学物質管理者の選任義務化や、リスクアセスメントに基づくばく露防止措置が順次施行されました。
2019年改正(働き方改革関連)|産業医機能の強化・労働時間の把握義務
2019年の改正では、働き方改革関連法の一環として、産業医の権限や情報提供体制の強化がポイントでした。
事業者は産業医に対して労働者の健康管理に必要な情報を提供する義務を負うこととなり、産業医からの勧告内容を衛生委員会に報告する仕組みの整備も進みました。
また、すべての労働者の労働時間の客観的な把握も義務化されました。
2014年改正(2015年施行)|ストレスチェック制度の創設・化学物質リスクアセスメントの義務化
2014年の改正では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、年1回のストレスチェックの実施が義務化されました(2015年12月施行)。職場のメンタルヘルス対策を法的に位置づけた画期的な改正だと言えます。
同時に、一定の危険有害な化学物質に対するリスクアセスメントの実施義務も導入されました。
2006年改正|長時間労働者への医師面接指導の義務化
2006年の改正では、長時間労働による健康障害を防止するため、月100時間超の時間外・休日労働を行い疲労の蓄積が認められる労働者に対して、医師による面接指導の実施が事業者に義務づけられました。なお、この基準は2019年の働き方改革関連法の施行に伴い「月80時間超」に引き下げられ、現在に至っています。
過労死や過労自殺が社会問題化するなかで、健康管理の強化を図る改正だったと言えます。
6. 労働安全衛生法の改正に関するよくある質問(FAQ)
ここからは、労働安全衛生法の改正に関してよくある質問をまとめました。
Q. 労働安全衛生法に違反した場合、罰則はありますか?
労働安全衛生法には刑事罰を伴う規定が含まれています。たとえば、安全衛生管理体制の未整備や危険防止措置の不履行には罰金刑等が科される場合があります。
また、罰則の規定がない努力義務であっても、対策を怠った結果として労災が発生した場合には、民事上の安全配慮義務違反を問われるリスクがある点に注意が必要です。
Q. ストレスチェックの義務化は50人未満の事業場にも適用されるのですか?
現時点では50人未満の事業場は努力義務ですが、2025年5月公布の改正法により、50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されることが決定しました。
施行日は今後政令で定められる見通しです。
国としても、地域産業保健センター(地さんぽ)の体制拡充などの支援を進める予定だとしています。
Q. 2026年の改正は一度にすべて施行されるのですか?
一度にすべてが施行されるわけではありません。
2026年1月1日から段階的に施行され、改正項目によって施行日が異なります。
多くの項目は2026年4月1日施行であるものの、化学物質関連など一部は2026年10月や、さらにそれ以降の施行となる項目もあります。
自社に関係する項目の施行日を個別に確認し、計画的に準備を進めることが重要だと言えるでしょう。
Q. 個人事業者やフリーランスを受け入れている企業は何が変わるのですか?
2026年4月施行の改正により、個人事業者等が労働安全衛生法による保護対象および義務の主体として位置づけられることとなりました。
よって、建設現場や製造業などで個人事業者を受け入れている企業は、既存の労働者だけでなく個人事業者等を含めた災害防止措置や情報提供体制の整備が必要となります。
Q. 産業医がいない中小企業はどのように対応すればよいですか?
常時50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、労働者の健康管理に関する医学的な助言を得る仕組みは必要です。
地域産業保健センター(地さんぽ)の無料相談サービスや、外部の産業保健サービス事業者との契約を通じて、産業医・保健師の知見を活用することが推奨されます。
7. まとめ:労働安全衛生法の改正を正しく理解して安全で健康な職場づくりを推進しよう

労働安全衛生法は1972年の制定以来、社会環境や労働災害の実態に応じて改正を重ねてきました。
近年は化学物質管理の自律的管理への移行、ストレスチェック制度の拡充、産業医機能の強化と改正テーマが多方面に広がっています。
2026年からは個人事業者等への保護拡大、全事業場へのストレスチェック義務化、高年齢労働者の労災防止措置の努力義務化など、さらに大きな変化が控えていることを念頭に置き、対策を講じていく必要があります。
企業の人事労務担当者は、改正内容を正確に把握し、施行スケジュールに合わせて計画的に社内体制を整備していくことが求められています。とりわけ、産業医や保健師などの専門家との連携は、法改正対応をスムーズに進めるうえで不可欠だと言えるでしょう。
自社の安全衛生管理体制を見直す第一歩として、本記事で紹介した改正ポイントを参考にしてみてください。


看護師の後、働く人の健康管理に携わるため保健師として産業保健業務に従事する。
現職では、さまざまな規模の企業に対して、個別支援を中心としたかかわりから、広く集団に向けて健康情報の発信や、喫煙対策プログラム構築、保健師の導入支援など産業保健サービスに携わる。
















