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船員法改正とは?働き方改革の内容や事業者がやるべきことを解説 


0_船員法改正とは?働き方改革の内容や事業者がやるべきことを解説

2022年4月に船員法等が改正され、船員の働き方改革がスタートしました。働き方改革により、船舶所有者(以下、事業者)には労務管理記録簿の作成や労務管理責任者の選任、船員の健康確保など、さまざまな対応が求められます。自社の対応に問題がないか、不安を抱いている事業者も多いのではないでしょうか。

本記事では、船員法改正の内容や、働き方改革に対して事業者がやるべきことを解説します。

目次

  1. 2022年4月施行の船員法改正とは
  2. 船員法の改正に伴う働き方改革の内容
  3. 船員法改正による働き方改革に対応するには
  4. 船員法改正や船員の働き方改革に関するお役立ち資料
  5. 船員法改正に関するよくある質問
  6. まとめ:船員法改正に適切に対応できるよう、産業医を選任しよう
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1.2022年4月施行の船員法改正とは

1_船員法改正とは

船員法改正とは、船舶に乗り海上で働く方の働き方を改革するために、船員法や船員職業安定法等が改正されたことを指します。2022年4月(一部は2023年4月)に施行されました。

2022年4月からは、船員の働き方改革第1弾がスタートしました。第1弾では、事業者が船員の労働時間の状況を把握し、適切な措置を講じることが義務付けられています。また、2023年4月からは第2弾として、労働時間規制の範囲の見直しや船員の健康確保に関する新たな制度が施行されました。

船員法が改正された背景

船員法が改正された背景としては、船員の定着率が低いことへの課題意識が挙げられます。

国土交通省によると、新人内航船員の定着率は2015年に85%だったものの、2020年には78.4%まで低下しました。

出典:国土交通省「船員法等の改正」

原因として、船員の働き方が若者の志向に合わなくなってきていることが指摘されています。船員は海上労働という特殊さゆえ、長期間乗船や長時間労働となることも少なくありません。仕事より家庭やプライベートを重視する若者が増えている昨今、船員として働く魅力が薄れていると考えられます。

せっかく教育した若手船員が離職してしまうのは、業界にとって大きな損失となるでしょう。船員が働き続けたいと思える環境を整えるためには、働き方改革を進めることが望ましいです。

船員法改正をめぐる経緯

船員法が改正から働き方改革がスタートするまでの経緯は以下の通りです。

2021年5月海事産業基盤強化法の成立・公布
2022年1月国土交通省が船員モデル就業規則を発表
2022年4月改正船員法が施行、働き方改革第1弾が開始
2023年4月働き方改革第2弾が開始

まずは、海事産業(造船、海運、船員)の基盤を強化するため、海事産業基盤強化法が成立・公布されました。

2022年1月には、事業者が適切な就業規則を整備できるよう、国土交通省が船員モデル就業規則を発表しています。このモデルでは、次の事項の規程例が示されています。

就業規則に必ず記載しなければならない事項労働時間や休日、定員、給料など
各事業者でルールを定める場合、就業規則に記載しなければならない事項服務規律や退職金など

そして、2022年4月に改正船員法が施行され、2022年4月と2023年4月の2回に分けて働き方改革がスタートしました。働き方改革の詳細については後述します。
参考:国土交通省「『船員モデル就業規則』を作成しました!~就業規則の作成・見直しにご活用ください~」

2.船員法の改正に伴う働き方改革の内容

2_船員法の改正に伴う働き方改革の内容

船員の働き方改革では、事業所に対して以下の内容が義務付けられました。

第1弾労務管理記録簿の作成・備置き
船員の労働時間の状況の把握
労務管理責任者の選任
船員に対する労務管理上の措置
第2弾労働時間の例外規定の見直し
船員の健康確保

以下で、それぞれの内容について解説します。

労務管理記録簿の作成・備置き

事業者は、船員の労働時間や有給休暇取得等を管理できるよう労務管理記録簿を作成し、船員の労務管理を行う主たる事務所に備え置く必要があります。

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労務管理記録簿の作成と備置きが義務付けられたことで、これまで曖昧だった船員の労務管理の責任が、事業者に所在すると明確化されました。

労務管理記録簿は、従来の船内記録簿と休日付与簿を統合したものです。具体的には、以下のような内容を記載します。

  • 船員の氏名
  • 乗船期間
  • 船名
  • 職名
  • 時間外労働協定や補償休日労働協定、休息時間分割協定の有無
  • 基準労働期間
  • 休日や補償休日、有給休暇の付与日数
  • 作業の開始及び終了の時刻
  • 1日あたりの労働時間
  • 時間外労働
  • 休息時間 など

労働時間の記録や労務管理記録簿の作成は、紙媒体・電子媒体のいずれでも行うことができますが、電子的な方法で行うことが望ましいとされています。

船員の労働時間の状況の把握

事業者は、船員の労働時間の状況を正しく把握することが必要です。

船員法では、労働時間の定義が「船員が職務上必要な作業に従事する時間(海員については、上長の職務上の命令により作業に従事する時間に限る)」と定められていますが、「船員の労務管理の適正化に関するガイドライン」により、労働時間の考え方や判断方法、具体的な例示などがなされて定義が明確化されました。作業に従事する時間には、実際の作業には従事していないものの、労働からの解放が保障されていない場合も含みます。

労働時間該当性の判断方法としては、以下の業務に従事する時間は労働時間に該当するものとされ、

  • 自身の役職上担う役割に属し、上長の命令により行う業務
  • 自身の役職上担う役割には属さないが、上長の命令により行う業務
  • 上長の命令はないものの、自身の役職上担う役割に属する業務

一方、以下については労働時間に該当しないといった考え方が示されています。

  • 自身の役職上担う役割に属すが、上長から従事禁止命令がある業務
  • 上長の命令はなく、自身の役職上担う役割にも属さない作業
  • 上長の指示を受けて行う私生活上の作業
  • 船内における私生活

事業者は、上記の考え方をもとに個別具体的に判断し、船員の労働時間を正しく把握しなければなりません。

労務管理責任者の選任

事業者には、労務管理責任者の選任も義務付けられました。労務管理責任者は、以下の4つを管理する役割を担う存在です。

  • 労務管理記録簿の作成・備置き
  • 船員の労働時間の状況の把握
  • 船員の健康状態の把握
  • 船員からの職業生活に関する相談に関する事項の管理

また、船員の労働時間や健康状態から何らかの措置を講じる必要があると判断した場合は、事業者に意見を述べる役割も果たします。

労務管理責任者に特別な資格は不要です。労務管理について十分な知識や経験を有する者を選任するのが望ましいとされています。

選任後は、認定労務管理責任者講習を受講させるなど労務管理責任者として必要な知識を習得・向上を図るための措置を講ずるよう努めなければならないとされています。

船員に対する労務管理上の措置

事業者は労務管理責任者の意見を参考に、船員に対して必要な労務管理上の措置を講じなければなりません。例えば、船員の健康状態が悪化している場合は対象船員の労働時間を短縮したり、休日や有給休暇を付与したりすることが考えられます。

運航計画の関係上必要な措置を講じられない場合は、オペレーターに運航計画の変更等に関する意見を述べなければなりません。その際は、書面やメールなどの記録に残る方法で意見を述べることが望ましいとされています。また、意見の根拠となるような、船員の労働時間の状況に関する情報提供も大切です。

労働時間の例外規定の見直し

2023年4月から労働時間の例外規定が見直され、事業者は対応が求められます。

船員の労働時間は、1日8時間が原則ですが、労使協定の定めがある場合に行う時間外労働や特別に必要な作業を行う場合は、1日あたりの労働時間の上限を14時間までとできることに変わりはありません。

従来は、安全・救助のための緊急作業や防火操練等、航海当直の交代に従事する時間については、労働時間の規制対象外であるとされていました。しかし、改正後に防火操練等と航海当直の交代に従事する時間については、労働時間の規制範囲内となりました。つまり、これらの作業に従事する時間も含めて1日8時間を超えた場合は割増手当を支払わなければならず、1日あたりの労働時間が14時間を超えてはならないこととされました。

労働時間規制の範囲が拡大することに伴い、運航計画の変更が必要となるケースもあるでしょう。事業者には、オペレーターや荷主と連携しながら、労働時間規制を遵守できるよう対応することが求められます。

船員の健康確保

2023年4月から、船員の健康確保を図るために新たに以下の制度が導入されました。

1船員向け産業医制度産業医による船内の作業環境・衛生状態の把握健康検査の結果に基づく指導長時間労働の船員に対する面接指導高ストレス者に対する面接指導
2健康検査結果に基づく健康管理健康検査の診断結果の提出診断結果等の保存医師からの意見聴取事後措置
3過重労働対策長時間労働の船員に対する医師による面接指導面接指導の結果の記録医師からの意見聴取事後措置 
4メンタルヘルス対策ストレスチェックの実施ストレスチェックの結果の記録・分析高ストレス者に対する面接指導事後措置

上記のうち、2は全ての事業者、1・3・4については常時50人以上の船員を使用する事業者に対して義務付けられています。それ以外の事業者については努力義務です。

また、2・4の対象となるのは、船員のうち常時使用する船員です。

メンタルヘルスサポートのご案内はこちらをご覧ください。メンタルヘルスサポートのご案内はこちらをご覧ください。

3.船員法改正による働き方改革に対応するには

3_船員法改正による働き方改革に対応するには

ここでは、船員法改正による働き方改革に対応するために事業者が心がけるべき4つのポイントを解説します。

  • 労働時間は客観的な方法で把握する
  • 労働時間の管理を電子化する
  • 多様な働き方を実現する制度を整える
  • 自社に適した産業医を選任する

労働時間は客観的な方法で把握する

事業者が労働時間を把握する際は、客観的な方法で把握しなければなりません。具体的には、タイムカードや勤怠管理システムの利用が挙げられます。

船長等が現認して開始時刻と終了時刻、作業種類を記録する方法も認められています。しかし、デジタルツールを利用した方が効率的です。

例外的に、自己申告で労働時間を把握する方法も認められていますが、この場合、事業者は以下の措置を講じることが必要です。

  • 労務管理責任者、船長、船員に対して十分に説明する
  • 申告内容と客観的な記録(AIS等)との間に乖離があれば、実態を調査する
  • 申告内容を船長等が修正する場合は、その履歴を残す

労働時間の管理を電子化する

船員の労働時間を効率よく管理するためには、電子化を進めることが大切です。電子化により、労務管理責任者の業務負担軽減が期待できます。

また、電子化により労働時間管理を自動化・可視化できれば、船内と陸上、オペレーター間でデータをシームレス共有できるのもメリットです。データをもとに、運航計画の見直しや過重労働防止のために必要な措置を迅速に行えます。

電子化を進められるよう、複数の管理システムが登場しています。使いやすいシステムを選ぶためには、以下の3つのポイントをチェックしましょう。

  • 自社が使いやすいデバイスに対応しているか
  • 労務管理記録簿作成以外に必要な機能が搭載されているか
  • 労働時間の記録・管理が簡単で、無理なく継続的に利用できるか

国土交通省は、労務管理記録簿のExcelマクロデータを無料で公開しているため、利用してみるとよいでしょう。

参考:国土交通省「船員の労働時間管理の電子化・効率化を支援します!~『労務管理記録簿Excelマクロ』の配布~」

多様な働き方を実現する制度を整える

働き方改革では、時間外労働を削減するだけではなく、多様な働き方を実現することも求められます。国土交通省は、船員の多様な働き方を実現できるよう以下の取り組みを実施しています。

  • 船員法関係資格等の申請書式や資格証明書式について、旧姓併記を可能に
  • 育児・介護休業制度の改正や、新たな育児休業制度の施行

旧姓併記については、社内手続きの際も希望者の旧姓使用を認める取り組みを行うのが有効です。

また、船員が職業生活と家庭生活を両立させられるよう、社内の育児・介護休業制度を見直して適宜改善することも大切です。

自社に適した産業医を選任する

船員の健康を確保するためには、自社に適した産業医を選任することも選択肢として考えられます。

産業医の選任は、常時50人以上の船員を使用する事業者以外については努力義務です。しかし、船員の健康管理や労働環境の改善、衛生教育など、産業医は大きな役割を果たします。

船員の健康確保に尽力してくれる、自社に適した産業医を選任しましょう。

産業医の選任方法としては、大きく以下の3つの選択肢があります。

  • 健診機関から紹介してもらう
  • 地域の医師会に相談する
  • 産業医紹介サービスを利用する

4.船員法改正や船員の働き方改革に関するお役立ち資料

4-2_船員法改正や船員の働き方改革に関するお役立ち資料

船員法改正や船員の働き方改革について正しく理解するためには、国土交通省が公開している特設ページや労務管理ガイドラインが参考になります。詳しくは以下をご覧ください。

参考:国土交通省「船員の働き方改革」

参考:国土交通省「船員の労務管理の適正化に関するガイドライン」

5.船員法改正に関するよくある質問

最後に、船員法改正に関するよくある質問とその回答を紹介します。

  • Q.労務管理記録簿のフォーマットや保存期間に決まりはある?
  • Q.船長が労務管理を担当している場合、新たに労務管理責任者を雇う必要がある?
  • Q.船員向け産業医の要件は?

Q.労務管理記録簿のフォーマットや保存期間に決まりはある?

A.労務管理記録簿は、法令の様式と同様の事項が記載されていれば、フォーマットは問われません。また、労務管理記録簿の保存期間は、当面の間3年間と定められています。

Q.船長が労務管理を担当している場合、新たに労務管理責任者を雇う必要がある?

A.これまで船長が労務管理を担当している場合、新たに労務管理責任者を雇う必要はありません。船長を労務管理責任者として選任すればよいとされています。

Q.船員向け産業医の要件は?

A.船員向け産業医になれるのは、次のいずれかの要件を満たす医師のみです。

  • 厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
  • 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
  • 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
  • 大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者

出典:国土交通省「船員向け産業医選任・活用マニュアル~船員の健康確保に向けて〜」

なお、法人の代表者や船員を使用して事業者が行う事業の実施を統括管理する者については、船員向け産業医にはなれません。

6.まとめ:船員法改正に適切に対応できるよう、産業医を選任しよう

2022年4月に船員法等が改正されたことで、船員の働き方改革が始まりました。事業者には以下の事項への対応が求められます。

  • 労務管理記録簿の作成・備置き
  • 船員の労働時間の状況の把握
  • 労務管理責任者の選任
  • 船員に対する労務管理上の措置
  • 労働時間の例外規定の見直し
  • 船員の健康確保

船員法改正に適切に対応するためには、労働衛生について豊富な専門知識を有する、信頼できる産業医を選任することが選択肢となるでしょう。
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