ぶら下がり社員の特徴・原因と会社へのデメリット|対策は日常の声かけから(例文付き)

「会議には出席しているのに、発言はしない」「意見を求めると『特にないです』と返ってくる」「締め切りは守るけれど、新しい取り組みには無関心」――。そんな社員の顔が思い浮かんだ方は少なくないはずです。辞めるわけではないため問題として表面化しにくい「ぶら下がり社員」は、放置すると会社の業績や職場の活力を静かに蝕んでいきます。
こうした変化に早く気づき、適切な声かけや支援につなげるには、現場の管理職が日常のコミュニケーションを見直すことが欠かせません。弊社では、その実践を支える管理職向け研修をご提供しています。
本コラムで紹介する声かけ例も、主に上司が部下と向き合う場面を想定したものですが、内容によっては人事総務部門が社員面談や相談対応の場で活用できる視点も含まれています。人事総務の皆さまには、管理職をサポートするヒントとして、また必要に応じて自部門での声かけにも応用できる内容としてご覧ください。
本コラムでは、精神科臨床と産業保健の両方の現場を経験した臨床心理士の知見をもとに、ぶら下がり社員の特徴、生まれる原因と企業にとってのデメリット、そして人事総務部門が明日から実践できる対策と支援の考え方を解説します。
【目次】
- ぶら下がり社員とは――「静かな退職」「とりあえず在籍」との関係
- ぶら下がり社員が会社にもたらすデメリット――離職率に表れない「見えない赤字」
- 「2つのエンゲージメント」で理解を深める
- ぶら下がり社員はなぜ生まれるのか――5つの原因と職場の構造
- ぶら下がり社員の特徴セルフチェックと、職場で気づけない4つの理由
- ぶら下がり社員への対策と接し方――明日から使える声かけ6つのBefore/After例文
- 声かけは「スキル」――反復を仕組みにする動画研修
- まとめ:ぶら下がり社員の改善は「対話」と「反復」の両輪で
- ぶら下がり社員に関するよくある質問


ぶら下がり社員とは――「静かな退職」「とりあえず在籍」との関係
ぶら下がり社員とは、辞めるほどの不満はないものの、組織へ貢献しようという意欲が枯渇したまま在籍し続ける社員を指します。近年はそれに近い状態を指す言葉として米国発の「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉でも注目されており、弊社の共催セミナーでは「とりあえず在籍」と表現しました。
重要なのは、退職者との違いです。退職は「声を上げた人」の明確なシグナルであり、離職率という数値で測定でき、原因分析も対策も立てやすいものです。一方、ぶら下がり社員は転職も退職もしないためシグナルが出ません。離職率にも表れないまま、時間をかけて静かに組織へダメージを蓄積していきます。
ぶら下がり社員が会社にもたらすデメリット――離職率に表れない「見えない赤字」
米ギャラップ社の調査(State of the Global Workplace 2026)によると、日本で「熱意を持って働いている」と分類される社員はわずか8%にとどまります。もちろん、残りの92%の社員がすべて「ぶら下がり社員」だという意味ではありません。とはいえ、世界平均の半分以下という水準は、看過できないデータだと考えられます。同調査では、低い従業員エンゲージメントが世界経済に与える損失は年間およそ10兆ドル、世界GDPの約9%に相当すると推計されています。
この「見えない赤字」、つまり企業にとってのデメリットは、3つの構造から生まれます。
- 生産性の低下: 最低限の業務しかこなさない状態が続くことで、チームの目標達成や企業の業績に影響する可能性がある
- 職場風土への波及: 1人の低関与が周囲の発言量や協働意欲にも影響し、チーム全体の活力を下げることがある。「頑張っても結果は変わらない」という空気が広がれば、意欲の高い社員ほど離れていくリスクもある
- 採用・補充判断の遅れ: 退職しないため人員補充の判断が遅れ、「人はいるが機能していない」実質的な空席が長期化する
また、厚生労働省の雇用動向調査では、退職理由の上位に男女とも「職場の人間関係」が挙がります。裏を返せば、同じ不満を抱えながら声を上げず、在籍し続けている社員がいるということです。博報堂生活総合研究所の長期調査「生活定点」でも、会社への気持ちに関する意識は20年以上にわたり緩やかに下がり続けています。ぶら下がり社員は一過性の流行ではなく、じわじわと進行してきた構造的な変化と捉えるべきでしょう。
「2つのエンゲージメント」で理解を深める
ぶら下がり社員の状態は、2つのエンゲージメントを分けて見ると理解しやすくなります。
- 従業員エンゲージメント: 社員と会社・組織との心理的な結びつき。会社への信頼・共感、帰属意識に加え、「この組織の一員として貢献したい」という意欲を含む
- ワークエンゲージメント: 社員と仕事そのものとの結びつき。仕事に対する活力・熱意・没頭によって特徴づけられる、仕事そのものに対する肯定的で充実した心理状態
ぶら下がり社員は、退職するほど会社への不満が強いわけではなく、雇用上のつながりや在籍継続の意思は残っています。しかし、それは必ずしも「会社に前向きに貢献したい」という従業員エンゲージメントが高いことを意味しません。むしろ、会社への積極的な貢献意欲も、仕事そのものへの活力・熱意も低下している状態と捉えるほうが自然です。
つまり、ぶら下がり社員とは「会社をすぐに辞めたいわけではないが、組織にも仕事にも前向きに関わりきれていない」状態です。だからこそ離職率にもストレスチェックの数値にも表れにくい、「病気ではないけれど、元気でもない」状態なのです。
ぶら下がり社員はなぜ生まれるのか――5つの原因と職場の構造
ぶら下がり社員というと、本人の性格や努力不足の問題と捉えられがちです。しかし多くの場合、意欲の低下は個人だけでなく、職場や会社の仕組みとの関係の中で生まれます。代表的な原因として、次の5つが挙げられます。
- 役割と期待が不明確: 自分に何が期待されているのか、どこまでが自分の役割なのかが見えないと、最低限の業務にとどまりやすくなる
- 評価への納得感が低い: 年功序列的な運用が残る企業で自分の成果や努力が評価に反映されにくい、評価基準そのものが見えないといった状態では、「頑張っても同じ」と感じやすい
- 承認・貢献実感の不足: 自分の仕事が誰の役に立っているのかを実感できる経験が少ないと、仕事への活力が下がりやすい
- キャリアや成長の見通しが持てない: 今の会社で経験を積んだ先の自分の姿が描けない、育成や教育の場が限られていると、成長意欲が薄れていく
- 体調・メンタル面の変化: 意欲の低下の背景に、疲労の蓄積や心身の不調が隠れている可能性もある
とくに5つ目は見落とされやすいポイントです。「やる気がない」と決めつける前に体調面の変化にも目を向け、状況によっては産業医や保健師などの専門職につなぐことが大切です。
見方を変えれば、いずれの原因も会社や上司の関わり方次第で改善の余地があるということです。ジョブ型雇用への移行など人事制度を見直す企業も増えていますが、制度改革は一朝一夕には進みません。日々の声かけで補える部分も多くあります。
ぶら下がり社員の特徴セルフチェックと、職場で気づけない4つの理由
ここ1〜2ヶ月のチームメンバーを思い浮かべながら、次の3項目をチェックしてみてください。
- 会議で発言が減った(「特にないです」が口癖になっている)
- 雑談や自己開示が消えた(チャットが「了解しました」「承知しました」だけの定型返信に)
- 成長機会に無関心(研修や異動の打診に「お任せします」。希望も拒否もない)
2つ以上当てはまれば黄色信号です。ただし、これらは「辞めたい」サインではなく「仕事への活力が下がっている」サインです。まだ会社に留まっているからこそ、早期の関与によって対話や支援につなげやすくなります。
一方で、この変化には気づきにくい構造的な理由があります。①管理職自身がプレイヤー業務を抱え、部下を観察する時間が物理的に取れない ②リモートワーク(テレワーク)で表情や声のトーンといった非言語情報が減った ③「迷惑をかけたくない」という配慮の文化で、違和感が言語化されない(沈黙は同意ではありません) ④年1回のストレスチェックでは"冷め始め"のわずかな揺らぎを捉えきれない――。
つまり、気づきの鍵は数値ではなく、日常会話の中の「あれ、いつもと少し違うな」という違和感なのです。
ぶら下がり社員への対策と接し方――明日から使える声かけ6つのBefore/After例文
大規模な制度改革には手間もコストもかかりますが、声かけは今日から無料で始められる、投資対効果の高い打ち手です。
| 場面 | Before(冷) | After(暖) |
|---|---|---|
| ①忙しそうなメンバーに | 「大変そうだね」 | 「頑張ってるね、何か手伝えることある?」 |
| ②ミスの報告を受けたとき | 「責任取れるの?」 | 「素早い報告ありがとう。一緒に対策を考えよう」 |
| ③ミスの事後フォロー | 「二度としないでね」 | 「これを次の糧にしよう。何が学びになった?」 |
| ④沈黙しているメンバーに | 「何か意見ないの?」 | 「〇〇さんの視点も聞いてみたいな」 |
| ⑤成果が見えにくいメンバーに | (声をかけない/素通り) | 「その仕事、目立たないけどチームの土台になっているよ」 |
| ⑥1on1で | 「順調?」 | 「最近、仕事で"面白い"と感じる瞬間ある?」「今のチームで"もったいない"と思うことある?」 |
ポイントは、メッセージの焦点を「責任」や「圧」から、「協働」「学び」「存在の承認」へ変えることです。
たとえば①の「大変そうだね」には注意が必要です。人は周囲から「大変だね」と言われて初めて「自分は大変なのだ」と認識することがあるほど、自己認識は曖昧なものです。よかれと思った一言が、相手の状況にネガティブなラベルを貼ってしまうことがあります。「頑張ってるね」という承認に置き換えるだけで、相手の仕事への認識は前向きに変わります(明らかに頑張りすぎている社員には逆効果になるため、使い分けにはご注意ください)。
また、1on1では「はい/いいえ」で答えられない問いを投げることがポイントです。不満を直接尋ねるより、「もったいない」という切り口のほうが本音を引き出しやすくなります。とくに、貢献している実感の欠如はワークエンゲージメントが下がる大きな要因のひとつ。人は「見られている」と感じた瞬間から、心の温度が戻り始めます。
すべての声かけに共通する原則は、感謝・リスペクト・伴走の3つです。指示・評価・命令ではなくこの3つを軸にすることで、メンバーが再び関与しやすい土台をつくることができます。
声かけは「スキル」――反復を仕組みにする動画研修
もっとも、こうした声かけは1回学んだだけでは身につきません。セミナーや研修の内容は、復習しなければ1週間でその大半を忘れてしまいます。声かけは知識ではなくスキルであり、スキルは反復でしか定着しないのです。
そこで有効なのが、短時間の動画研修です。弊社では、産業医・保健師・臨床心理士などの専門職が監修・出演する1本約10分の動画コンテンツをご提供しています。ラインケアやハラスメント対応など実務シーン別に構成されており、朝礼前や移動中でも視聴可能です。忘れかけた頃にまた学ぶ反復設計で、気づきを習慣に変えます。
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まとめ:ぶら下がり社員の改善は「対話」と「反復」の両輪で
ぶら下がり社員は、離職率にもストレスチェックにも表れない「見えないコスト」です。しかし、会社との接点が残っている段階だからこそ、日常の声かけを起点に、早期の対話と支援につなげることができます。「対話」で気づき、「動画」で続ける。この両輪で、辞めない・冷めない組織づくりを始めてみませんか。
あわせて前編「管理職の指導のばらつきをなくす動画研修の導入手順|心理的安全性と新入社員の定着」もご覧ください。
ぶら下がり社員に関するよくある質問
H3 Q1. ぶら下がり社員と「静かな退職」は同じ意味ですか?
「静かな退職」は、退職せずに職務範囲内の業務にとどめる働き方・態度を指す言葉です。一方、日本語の「ぶら下がり社員」は、在籍継続や組織への低関与まで含めて使われることがあります。両者は重なる部分が大きいものの、背景や使われ方には違いがあるため、完全に同じ概念として扱わない方が適切です。
H3 Q2. ぶら下がり社員にイライラしてしまいます。どう向き合えばよいですか?
周囲がそう感じるのは自然なことです。ただし、本人の性格や怠慢だけに原因を求めるのではなく、役割の不明確さ、承認不足、成長実感の欠如、体調面など複数の要因から捉えることが大切です。まずは責める言葉ではなく、存在や貢献を認める声かけから始め、必要に応じて上司・人事・専門職が連携して状況を確認していくことが望まれます。
H3 Q3. 声かけがハラスメントと受け取られないか不安です。
声かけは、相手を問い詰めたり私生活に踏み込んだりするものではありません。「最近、業務量はどうですか」「何か進めにくいことはありますか」など、仕事上の状況を確認する形であれば、支援につながる対話になりやすくなります。管理職がすべてを解決しようとせず、必要に応じて産業医や相談窓口など専門家へ橋渡しする姿勢も重要です。
H3 Q4. 部下にどこまで踏み込んでよいのでしょうか?
基本は、プライベートを詮索せず、「仕事への影響」と「体調面の変化」に焦点を当てることです。心配のあまり踏み込みすぎると負担になる一方で、明らかな変化を見過ごすと支援の機会を逃すことがあります。業務遂行に支障が出ている、欠勤や遅刻が増えている、体調不良が続いているといったケースでは、本人の同意や社内ルールに配慮しながら、産業医や相談窓口につなぐ対応が必要です。
H3 Q5. ストレスチェックを実施していれば発見できませんか?
年1回の定量調査は、組織全体の傾向を把握するうえで有効です。ただし、個々の社員の「冷め始め」の小さな変化は、調査のタイミングによって見えにくい場合があります。制度的な把握とあわせて、日常の会話や行動の変化に目を向けることが重要です。
H3 Q6. 研修をしても現場で定着しません。
研修内容を一度学んだだけで現場行動に定着させるのは簡単ではありません。短時間の動画を繰り返し視聴できる仕組みをつくり、忘れかけた頃に再学習することで、声かけやラインケアの実践につながりやすくなります。知識の提供だけでなく、日常業務の中で使える形に落とし込む設計が重要です。
H3 Q7. ぶら下がり社員を解雇することはできますか?
意欲が低いというだけで解雇することは、認められにくいと考えるべきです。労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利を濫用したものとして無効とされています。企業としては、まず役割や期待する成果を明確に伝えたうえで、面談や指導、配置の見直しなどを重ねることが前提になります。個別の事案については、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。
大学院では精神分析学を専攻とし、大学院修了後は精神科にて約5年の臨床経験を積む。
現在は企業向けにストレスチェックの分析や面談、メンタルヘルス関連の研修などを行い、様々な形で企業を支援する。
















