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歯科健診の義務化はいつから?「すでに義務」と「検討中」を区別して企業対応を解説【保健師監修】


企業には、労働安全衛生法に基づいて定期健康診断を実施する義務があります。

その一方で、一般的な定期健康診断に歯科健診は含まれておらず、企業での対応に迷う担当者も少なくないでしょう。

ただし、歯等に有害な業務に常時従事する労働者については、歯科医師による健康診断がすでに義務付けられています。

さらに近年は、国民が生涯を通じて歯科健診を受けられる体制づくり、いわゆる「国民皆歯科健診」に向けた取組も進められている状況です。

本記事では、歯科健診の義務化をめぐる現状を「すでに企業対応が必要な義務」と「今後の制度設計が検討されている取組」に分けて整理し、企業の人事・総務・産業保健担当者が今確認すべきポイントを保健師監修のもと解説します。

【目次】

  1. 【歯科検診と歯科健診】混同しやすい用語の違い
  2. 歯科健診の義務化とは何か【現状をまず押さえる】
  3. 国民皆歯科健診が検討されている背景
  4. 歯科健診義務化の現在地と今後のスケジュール
  5. 企業(人事・産業保健担当者)が今すべき準備
  6. 歯科健診を受けることで得られるメリット
  7. よくある質問(FAQ)
  8. まとめ:歯科健診義務化への備えは「今」から始める
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1.【歯科検診と歯科健診】混同しやすい用語の違い

「歯科検診」と「歯科健診」は、日常的には同じような意味で使われることも多いと言えます。

その一方で、一般的には「検診」は特定の病気を見つけるための検査、「健診」は健康状態を確認し、予防や健康維持につなげるためのチェックという意味合いで使い分けられることもあります。

参考:厚生労働省|健康日本21用語辞典「歯科健診(検診)」

2.歯科健診の義務化とは何か【現状をまず押さえる】

歯科健診の「義務化」には、現時点で2つの文脈があります。一つは、歯等に有害な業務に常時従事する労働者を対象に、すでに法令上の実施義務がある「歯科特殊健康診断」です。

そしてもう一つは、これから行われようとしているすべての国民が生涯を通じて歯科健診を受けられる体制づくりを目指す「国民皆歯科健診」の検討です。

まずは、両者の違いについて整理します。

すでに義務がある「歯科医師による健康診断(有害な業務に係る歯科健康診断)」とは

※以下では、法令上の名称にあわせて「歯科健康診断(歯科健診)」と表記します。一般に「歯科検診」と呼ばれるものと同じです。

労働安全衛生法第66条第3項では、「事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない」と定められています。

ここでいう「政令で定めるもの」とは、労働安全衛生法施行令第22条第3項が規定する業務で、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、ふっ化水素、黄りん、その他歯またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務が対象です。

また「厚生労働省令で定めるところ」とは労働安全衛生規則第48条を指し、上記業務に常時従事する労働者に対して、雇入れ時、配置替え時、およびその後6か月以内ごとに1回、歯科医師による健康診断を実施することが義務付けられています。

2022年10月の法改正により、歯科特殊健康診断の結果報告義務が、事業場規模にかかわらずすべての対象事業場に拡大されました。つまり、従業員数50人未満の事業場であっても対象業務がある場合には歯科特殊健康診断を実施し、結果を労働基準監督署へ報告する必要があります。未実施の場合、是正勧告の対象となることがあり、勧告後もなお実施しない場合には労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金が科される可能性があります。

参考:厚生労働省京都労働局|歯科健診の結果報告がすべての事業者に義務化されます

検討中の「国民皆歯科健診」とは何が違うのか

国民皆歯科健診とは、国民が生涯を通じて歯科健診を受けられる体制の整備を目指す政策的な取組です。

現時点では、全国民に一律の受診義務を課す法律が成立しているわけではなく、実施方法・費用負担・企業健診との関係などは検討段階にあります。

前出の有害業務従事者向けの歯科特殊健康診断とは、対象者・根拠法令・企業に求められる対応が異なるため、両者を混同しないことが重要です。

参考:厚生労働省|歯科保健課

3.国民皆歯科健診が検討されている背景

国民皆歯科健診が政策課題として注目されている背景には、口腔疾患と全身疾患をめぐる医学的知見の蓄積や、成人期以降の歯科健診機会の確保という課題があります。

学校卒業後は、自治体・職域・個人の受診行動によって歯科健診の機会に差が生じやすい傾向があります。また、歯科疾患の予防は、健康寿命の延伸や医療費の適正化という政策課題とも結びつくものです。

この制度が検討されるに至った背景は大きく3つに整理できます。それぞれの観点から詳しく見ていきましょう。

参考:厚生労働省|歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第二次)(歯・口腔の健康づくりプラン)のベースライン値及び目標値について

口腔の健康は全身疾患と深くつながっている

歯周病は糖尿病・心血管疾患・誤嚥性肺炎などとの関連性が研究で指摘されており、口腔内の炎症が血管を介して全身に影響を及ぼすメカニズムが明らかになっています。また、口腔ケアが生活習慣病の予防や認知機能低下リスクの軽減に寄与する可能性も高まっています。

参考:厚生労働省|歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第二次)

参考:厚生労働省|健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料

成人期以降の歯科健診機会にはばらつきがある

日本では、乳幼児期は自治体の健診で、学校入学後は学校保健の中で歯科健診を受ける機会が設けられています。

学校卒業後は歯科健診の機会が自治体・職域・個人の受診行動に左右されやすくなります。厚生労働省の令和6年歯科疾患実態調査では、過去1年間に歯科健診を受診した人の割合は63.8%とされ、受診率は上昇傾向にあるものの、定期的な予防目的での受診習慣をさらに広げることが課題です。

参考:厚生労働省|健康日本21用語辞典「歯科健診(検診)」

参考:厚生労働省|「令和6年歯科疾患実態調査」の結果(概要)

医療費削減と健康寿命延伸という国の政策目標

歯科診療にかかる国民医療費は年間約3兆円規模(2019年度実績)に上ります。しかし、疾患が重症化してから治療するよりも、定期的な予防健診で早期対処するほうが医療費全体を圧縮できると考えられます。

高齢化が進む中で健康寿命を延ばすための投資として位置づけられており、「8020運動(厚生労働省・日本歯科医師会が推進する「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動)」の文脈とも連動するものです。

参考:厚生労働省|令和元(2019)年度 国民医療費の概況

参考:内閣官房|経済財政運営と改革の基本方針2023

4.歯科健診義務化の現在地と今後のスケジュール

国民皆歯科健診については、政府方針の中で「生涯を通じた歯科健診に向けた取組」として推進されています。

その一方で、2026年10月時点では、全国民に一律の歯科健診を義務付ける法律は成立していません。

実施方法、費用負担、企業健診との関係など、具体的な制度設計は今後の検討課題となっています。

ここからは、今後の法改正の見通しと注目すべきポイントを示します。現時点で確定している事項と、今後の検討課題を区別して見ていきましょう。

参考:厚生労働省|歯科健診を取り巻く現状と検討会の今後の進め方について

現時点で確定・施行されている法改正の内容

有害業務従事者向けの歯科特殊健康診断については、すでに法令上の実施義務があります。

さらに2022年10月からは、歯科特殊健康診断の結果報告義務が、事業場規模にかかわらずすべての対象事業場に拡大されました。

対象業務がある企業にとっては、すでに対応が必要な法定義務として確認しておく必要があります。

参考:三重労働局|労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断を実施しましょう

国民皆歯科健診の導入に向けた検討状況

政府方針では、「骨太の方針(政権の重要課題などを示すもの)」などを通じて、生涯を通じた歯科健診に向けた取組の推進が示されています。国民皆歯科健診は、こうした政策の一環として検討・推進されている段階です。2026年5月には厚生労働省「歯科健診等のあり方等に関する検討会」で議論が始まり、同年7月31日には、歯科医師による口腔診査が難しい場合に唾液検査などで行う「簡易歯科健診」の考え方を示した中間とりまとめが公表されました。

ただし費用負担の主体(国・企業・個人)、検査項目、対象者の詳細は未確定であり、企業は法改正の動向を継続的にウォッチする必要があります。

義務化された場合に想定されるペナルティ

現行の有害業務従事者向け歯科特殊健康診断については、事業者に実施義務があり、未実施の場合は労働安全衛生法上の罰則対象となる可能性があります。

一方、国民皆歯科健診については、現時点で制度内容や罰則の有無は確定しておらず、企業側のペナルティを断定することはできません。

5.企業(人事・産業保健担当者)が今すべき準備

法案未確定の段階でも、企業が今から動いておくべき事項があります。

既存の有害業務従事者向け健診の体制見直し、国民皆歯科健診を見据えた健康管理規程の点検、産業保健スタッフとの情報共有などが挙げられるでしょう。法改正後に慌てず対応できるよう、今からの備えを示します。準備すべき内容は「法的に必須のもの」と「先行して取り組むことで効果が高いもの」に分かれるため、順に確認していきましょう。

有害業務従事者の歯科特殊健診体制を確認・整備する

まず足元の義務として、有害物質を扱う業務が自社内に存在するかどうかを確認しましょう。該当業務がある場合には、6か月ごとの実施体制と労働基準監督署への報告が済んでいるかどうかを点検します。企業規模にかかわらず報告義務があることを再確認することも重要です。

参考:三重労働局|労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断を実施しましょう

健康管理規程・産業保健体制を国民皆歯科健診に備えて見直す

国民皆歯科健診の具体的な制度内容は未確定であるものの、将来的に企業の健康管理施策や定期健康診断の運用と関係してくる可能性があります。

そこで、現行の健康管理規程や健診運用フローを点検し、歯科健診を追加する場合の対応方法を検討しておくと、制度化後もスムーズに対応しやすいでしょう。

また、産業医・保健師との連携体制や、従業員への情報提供の方法もあわせて整理しておくことが推奨されます。

参考:厚生労働省|歯科健診を取り巻く現状と検討会の今後の進め方について

従業員への口腔健康の啓発を先行して行う

自発的に歯科健診を受ける習慣が十分に定着していない場合には、義務化を待たずに従業員への啓発を行うことが有効です。

口腔ケアは生活習慣病対策や健康保持増進とも関連するため、健康経営の施策としても位置づけやすいでしょう。

セルフチェックの案内、歯科健診の受診勧奨、費用補助制度の導入などを検討すると良いと言えます。

6.歯科健診を受けることで得られるメリット

歯科健診を受けることは「義務だから」という理由以上に、個人・企業の双方に複数のメリットをもたらします。代表的なものを確認してみましょう。

早期発見・早期治療で個人の医療費を抑えられる

虫歯・歯周病は自覚症状が出にくく、気づかないうちに進行することがあります。

重症化してから治療するよりも、定期的な歯科健診で早期に発見し、必要な処置につなげるほうが、身体的・経済的な負担を抑えやすいと言えます。

全身疾患の予防・管理に役立つ

口腔疾患と全身疾患をめぐる医学的知見の蓄積により、歯周病の管理が糖尿病のコントロール改善や心血管リスク低減に関連すると明らかになってきています。この観点から、生活習慣病と口腔ケアを一体的に考えることが全身疾患の予防・管理に役立つと言えます。

企業にとっては生産性向上・健康経営評価につながる

企業が歯科健診の受診を支援することで、従業員の歯科トラブルによる急な欠勤や業務支障の予防につながる可能性があります。

また、口腔ケアは前出の通り生活習慣病対策や健康保持増進と関連するため、健康経営の一環として取り組みやすい施策とも言えるでしょう。

企業側のメリットとして、従業員の健康維持、生産性低下の予防、健康意識の向上といった点が挙げられます。

7.よくある質問(FAQ)

Q1|歯科健診の義務化はいつから始まりますか?

有害業務従事者向けの歯科特殊健康診断は、すでに法令上の実施義務があります。2022年10月からは、結果報告義務が事業場規模にかかわらずすべての対象事業場に拡大されました。

一方、全国民を対象とする国民皆歯科健診については、2026年10月時点で一律の受診義務を定める法律は成立しておらず、具体的な開始時期は未確定です。

参考:厚生労働省|労働安全衛生法に基づく健康診断の概要

参考:三重労働局|労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断を実施しましょう

参考:厚生労働省|歯科健診等のあり方等に関する検討会 開催要綱

Q2|歯科健診を実施しなかった場合、企業にはどのような罰則がありますか?

現行の有害業務従事者向け歯科特殊健康診断については、事業者に実施義務があり、未実施の場合は労働安全衛生法上の罰則対象となる可能性があります。

一方、国民皆歯科健診については、現時点で制度内容や罰則の有無は確定していません。そのため、企業への罰則を断定することはできません。

参考:厚生労働省|労働安全衛生法に基づく健康診断の概要

参考:厚生労働省|歯科健診等のあり方等に関する検討会 開催要綱

Q3|歯科健診の費用は誰が負担しますか?

国民皆歯科健診の費用負担については、2026年10月現在で未確定です。

有害業務従事者向けの歯科特殊健康診断については、事業者に実施義務があるため、費用は事業者負担が原則です。

企業が自主的に歯科健診を導入する場合の費用は、健診内容や委託先、実施方法によって異なるため、複数の歯科医療機関・健診機関に見積もりを取って確認することが推奨されます。

参考:労働省通達(昭和47年9月18日基発第602号「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」)

参考:厚生労働省|歯科健診等のあり方等に関する検討会 開催要綱

Q4|パートタイム・アルバイト従業員も歯科健診の対象になりますか?

有害業務従事者向けの歯科特殊健康診断は、対象業務に常時従事する労働者が対象です。パートタイム・アルバイトであっても、対象業務に常時従事している場合は確認が必要です。

一方、国民皆歯科健診については、対象範囲や企業での実施方法などの詳細はまだ確定していません。

参考:三重労働局|労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断を実施しましょう

参考:大阪労働局|健康診断実施しましょう(歯科健康診断を含む)

参考:石川労働局|労働安全衛生法に基づく健康診断に関するFAQ

8.まとめ:歯科健診義務化への備えは「今」から始める

歯科健診の義務化は、「有害業務従事者向けにすでに企業対応が必要な歯科特殊健康診断」と、「生涯を通じた歯科健診の機会確保に向けて検討・推進されている国民皆歯科健診」の2つを分けて理解する必要があります。

2026年10月現在、国民皆歯科健診の具体的な制度内容や開始時期は確定していません。

一方で、企業はまず足元の法定義務を確認し、対象業務がある場合は歯科特殊健康診断の実施・報告体制を整えることが重要です。

あわせて、従業員の口腔健康を支援する啓発や受診しやすい環境づくりを進めておくと、今後の制度変更にも対応しやすくなると考えられます。

参考:三重労働局|労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断を実施しましょう

参考:厚生労働省|歯科健診等のあり方等に関する検討会 開催要綱

参考:厚生労働省|歯科健診を取り巻く現状と検討会の今後の進め方について

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(文・監修/大内 麻友美)
さんぎょうい株式会社/ソリューション事業部 (看護師/保健師・キャリアコンサルタント・第一種衛生管理者・産業カウンセラー他)
看護師の後、働く人の健康管理に携わるため保健師として産業保健業務に従事する。
現職では、さまざまな規模の企業に対して、個別支援を中心としたかかわりから、広く集団に向けて健康情報の発信や、喫煙対策プログラム構築、保健師の導入支援など産業保健サービスに携わる。
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