健康経営が「意味ない」と感じる理由と、成果につなげるための見直しポイント

健康経営に取り組んでいるものの期待した成果が得られず、本当に意味があるのだろうかと疑問を感じている人事総務担当者や経営者は少なくありません。また、健康経営優良法人の認定を目指し、各種施策を導入したものの、従業員の健康状態や生産性に明確な改善が見られず、投資対効果の説明に悩むケースも増えています。
一方で、健康経営は国の施策としても推進されており、多くの企業が「やらなければならないもの」として取り組んでいるのが実情です。その結果、目的や評価軸が曖昧なまま施策が積み重なり、「結局、意味がないのではないか」という印象を強めてしまうこともあります。
本記事では、健康経営が「意味ない」と言われてしまう背景を整理したうえで、形骸化を防ぎ、実際の成果につなげるための考え方と実務上のポイントを解説します。
目次
- 健康経営が「意味ない」のではなく、意味が出る運用になっていないケースが多い
- なぜ「健康経営は意味ない」と感じてしまうのか
- 社内だけで進めることが難しい理由
- 「意味ない」状態が生まれるメカニズム
- 健康経営が本来もつ価値
- 意味のある健康経営に変えるための判断の枠組み
- 専門職を健康経営の運用に組み込むという考え方
- まとめ:健康経営を「意味ない」で終わらせないため
- よくある質問(FAQ)


健康経営が「意味ない」のではなく、意味が出る運用になっていないケースが多い
結論から述べると、健康経営そのものが無意味であるわけではありません。多くの場合、意味が出るように設計・運用されていないことが、成果が見えない原因となっています。
健康経営は、本来、従業員の健康を経営課題として捉え、戦略的に投資・改善を行う経営手法です。しかし、課題整理や指標設計、現場で継続できる仕組みが不十分なまま進められると、取り組みの効果が可視化されず、「意味がない」という評価につながってしまいます。
なぜ「健康経営は意味ない」と感じてしまうのか
健康経営優良法人の認定数が年々増加する一方で、総務担当者や決裁者の間では「結局、何が良くなったのかわからない」「現場の反応が薄い」といった声も聞かれるようになっています。
特に中小企業では、限られた人員と予算のなかで施策を実行しているため、成果が見えない状態が続くと、取り組み自体への疑問や焦りが生じやすくなります。また、経営層から「健康経営にかけた費用に対して、どのような効果があったのか」と問われた際に、明確な説明ができず、困った経験を持つ担当者も少なくありません。
しかし、こうした違和感は個別企業の問題ではなく、健康経営の進め方に共通する構造的な課題から生じている場合が多いのです。
社内だけで進めることが難しい理由
健康経営がうまく進まない場合、その原因を担当者個人のスキルや努力不足に求めてしまいがちです。しかし実際には、健康経営が難しい理由は、もっと構造的なところにあります。
健康経営は、特定の担当者が頑張れば解決する取り組みではなく、組織として自然に生じる制約や負荷を内包しています。その点を正しく理解しないまま進めると、担当者に過度な負担が集中し、結果として形骸化を招きやすくなります。
業務量が多く、健康データ分析やPDCAに十分な時間を割けない
総務・人事部門は、日々の労務管理、採用対応、制度運用、問い合わせ対応など多くの業務を抱えています。そのなかで、健康診断結果やストレスチェック、労務データを整理・分析し、さらにPDCAを回し続けるだけの時間を確保することは、現実的には容易ではありません。
健康経営は「一度整えれば終わり」という取り組みではなく、継続的な分析と改善が前提となります。しかし、通常業務と並行してこれを担うことは、担当者にとって大きな負荷となりやすいのです。
健康課題は専門知識が多岐にわたり、判断が難しい
健康経営で扱う課題は、身体的な健康だけにとどまりません。メンタルヘルス、長時間労働、職場環境、人間関係、組織文化など、複数の要素が複雑に絡み合っています。
これらを適切に分析し、優先順位をつけ、効果的な施策に落とし込むには、医学的知見、心理的理解、労務管理の視点など、多面的な専門知識が求められます。総務・人事担当者が単独で判断するには、難易度が高い領域です。
現場との調整コストが高い
健康経営施策を実行するためには、管理職や従業員との連携が不可欠です。面談の実施、業務配分の見直し、職場環境の改善など、どの施策を取るにしても、現場との調整が発生します。
特に管理職が多忙な場合や、職場ごとの事情が異なる場合、合意形成や実行までに時間と労力を要します。こうした調整コストの高さも、健康経営を継続的に進めるうえでの大きなハードルとなります。
このように整理すると、健康経営が難しいのは決して担当者の責任ではなく、組織として自然に生じる構造的な課題であることがわかります。
そのため、「外部の力を適宜借りる」という選択は、取り組みを放棄することではなく、こうした構造的課題を補完するための現実的な手段の一つといえます。
「意味ない」状態が生まれるメカニズム
健康経営が形骸化してしまう背景には、いくつかの要因が連鎖的に重なっていく構造があります。施策そのものの良し悪しではなく、「どのように設計し、どう運用しているか」が結果を大きく左右します。
取り組みが課題と一致していない
最も多く見られるのが、施策と実際の課題が一致していないケースです。例えば、従業員のストレス要因が長時間労働や人間関係にあるにもかかわらず、運動促進や食生活改善といった一般的な施策のみを実施しても、根本的な改善にはつながりにくいでしょう。
自社の課題を十分に分析しないまま、他社事例や認定要件に合わせて施策を選択してしまうと、「やってはいるが、効果が出ない」という状況に陥りやすくなります。
成果指標が曖昧で、効果が可視化されない
健康経営施策の効果を測定する指標が明確に設定されていないことも、意味がないと感じられる大きな要因です。「健康意識の向上」「働きやすい職場づくり」といった抽象的な目標だけでは、改善の有無を客観的に判断することができません。
結果として、経営層への説明が難しくなり、継続的な投資判断ができなくなります。また、従業員自身も変化を実感できず、施策への関心が薄れていきます。
現場で行動変容が起きる仕組みになっていない
単発のイベントやキャンペーンに留まる施策では、従業員の行動変容や習慣化は起こりにくいものです。現場の管理職がどのように関与するのか、日常業務のなかでどう実践されるのかといった設計が不足していると、取り組みは一過性のものになってしまいます。
健康経営が本来もつ価値

ここまで「意味がないと感じられてしまう理由」を見てきましたが、健康経営そのものに価値がないわけではありません。健康経営の本質は、従業員の健康増進を通じて、組織の活力や生産性、持続的成長を支える点にあります。
国が示す健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編 2025年3月版においても、健康経営は福利厚生の延長ではなく、経営戦略の一部として位置づけられています。欠勤率の低下、プレゼンティーズムの改善、離職率の低減、医療費の抑制といった効果は、適切に運用された場合に実証されています。
課題は健康経営そのものではなく、その運用方法にあります。
参考:健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編 2025年3月版
意味のある健康経営に変えるための判断の枠組み
健康経営を「意味ある取り組み」に変えるには、施策を増やす前に、推進の枠組み(フレームワーク)に沿って全体を点検することが重要です。
健康経営は、①経営理念・方針、②組織体制、③制度・施策の実行、④評価・改善、⑤法令遵守・リスクマネジメントの5つで成り立つと整理できます。どこか一つが欠けると、取り組みが続かない、効果が見えない、説明ができないといった問題が起こりやすくなります。
経営理念・方針:なぜ健康経営をやるのかを言語化する
最初に行うべきは、「何のために健康経営を実施するのか」を、経営の言葉として明確にすることです。認定取得や制度対応を目的にしてしまうと、現場では施策が“やらされ感”になりやすくなります。
生産性、定着、採用、労務リスク低減などの自社の経営課題と結びつけた方針に落とし込み、社内に共有することで、施策の優先順位と判断軸が揃いやすくなります。
組織体制:誰が、どこまで、何を担うかを決める
健康経営は総務・人事だけでは完結しません。経営層の関与、管理職の役割、産業保健スタッフとの連携、安全衛生委員会などの会議体の機能が揃って初めて回り始めます。
推進責任者、実務担当、現場(管理職)の役割分担と、意思決定・エスカレーションの流れを明文化し、属人化を防ぐ体制にすることが重要です。
制度・施策の実行:自社課題に対応した施策に絞る
次に、自社の健康課題を把握し、方針に照らして施策を選定します。健康診断結果、労務データ、ストレスチェック結果等を踏まえ、どこにリスクが集中しているのかを可視化することが前提となります。
施策は、他社事例を模倣するという方法もありますが、解決したい課題に対して有効かどうかで絞り込むべきです。現場が無理なく継続できる運用(フロー、頻度、関与者、社内周知)まで含めて設計することで、行動変容につながりやすくなります。
評価・改善:効果指標を3つのレベルで設計し、PDCAを回す
健康経営は「実施したかどうか」だけでは成果が説明できません。施策の実施結果と効果を計測する指標(KPI)は、次の3つのレベルを意識して設計することが重要です。
- 取り組みの状況に関する指標(例:イベント参加率、満足度、保健指導実施率、特定健診受診率等)
- 従業員の意識変容・行動変容に関する指標(例:高ストレス者の割合、運動習慣者比率、朝食欠食率、睡眠で十分な休養が取れている割合等)
- 健康関連の最終的な目標指標(パフォーマンス指標)(例:プレゼンティーズム、アブセンティーズム、ワーク・エンゲイジメント等の就業関連指標、従業員の健康状態等)
指標を設定する際は、「この施策が実行されると、どのような意識・行動変容が期待され、その結果として最終指標がどう改善するのか」という因果のつながりを意識することがポイントです。これにより、課題と施策の整合が確認しやすくなり、PDCAサイクルを回しやすくなります。
専門職を健康経営の運用に組み込むという考え方
産業医、産業看護職、臨床心理士といった専門職は、健康課題の見立てや面談、職場改善の助言などを通じて、健康経営の実効性を高める役割を担います。義務対応として関わるだけでなく、課題分析や改善サイクルに組み込むことで、健康経営は形式的な取り組みから、実質的な経営施策へと変化します。
まとめ:健康経営を「意味ない」で終わらせないため

健康経営が「意味ない」と言われる状況は、健康経営そのものの問題ではなく、運用や設計の課題によるケースが大半です。課題と施策のミスマッチ、評価指標の不明確さ、現場で継続できない仕組みといった要因を一つずつ見直すことで、健康経営は十分に成果を生み出す取り組みとなり得ます。
重要なのは、認定取得を目的とするのではなく、従業員の健康と組織の生産性向上という本来の目的に立ち返ることです。
まずは現状を整理し、どこに改善余地があるのかを把握することから始めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1.なぜ「健康経営は意味ない」と言われるのですか?
健康経営そのものではなく、課題と施策のミスマッチや評価指標の未設定、現場で継続できない運用が重なり、効果が見えなくなることが主な理由です。
Q2.健康経営の効果は何を見れば判断できますか?
健康経営の効果は、単一の数値だけで判断しにくいものです。そのため、一般的には次の3つのレベルで指標を組み合わせて確認することが有効です。
- 取り組みの状況に関する指標(例:参加率、満足度、面談実施率、受診率など)
- 従業員の意識変容・行動変容に関する指標(例:運動習慣、睡眠、ストレス指標の変化など)
- 健康関連の最終的な目標指標(パフォーマンス指標)(例:プレゼンティーズム、アブセンティーズム、ワーク・エンゲイジメントなど)
取組状況→行動変容→最終指標の順に「つながり」を設計し、改善の進捗を追える形にすると、投資対効果の説明もしやすくなります。
Q3.健康経営優良法人を取得しても効果が出ないのはなぜですか?
認定取得をゴールとすると、評価や改善が止まりやすくなるためです。取得後もPDCAを回し続けることが重要です。
Q4.健康経営は総務・人事だけで進めるものですか?
本来は経営課題であり、経営層や管理職、専門職を含めた体制づくりが不可欠です。
Q5.専門職の支援はどのように役立ちますか?
課題の整理、面談対応、職場改善の助言などを通じて、健康経営を実務として回しやすくする役割を果たします。
大手企業人事部にて10年以上、健康管理・健康経営推進に携わり、現在は健康経営コンサルティング、保健指導、メンタルヘルス、女性の健康課題、仕事と治療の両立支援など幅広い分野で産業保健活動を展開中。

