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​​女性の健康支援はなぜ【健康経営】につながらないのか?経営者調査データから見えた見落とされがちな本質


「女性活躍推進」や「健康経営」という言葉が叫ばれて久しい中、多くの企業が制度導入を進めています。一方で現場からは、「やっているつもりだが効果が見えない」「現場任せになっており、経営課題として認識されていない」といった声も聞かれます。

本来、組織の持続可能性を高めるはずの施策が、なぜ空回りしてしまうのでしょうか。本稿では、非営利法人等の経営者121名を対象とした独自アンケート調査の結果をもとに、女性の健康施策が経営課題として認識されにくい構造的要因と、その解決策について考察します。

目次

  1. なぜ今、女性の健康と健康経営が経営課題なのか
  2. 【調査結果】健康経営が浸透しない3つの意外な事実
  3. なぜ「一律の研修・施策」が機能しないのか
  4. 女性の健康支援を経営施策に変えるために必要なこと
  5. 【産業保健師監修コメント】保健師が語る「女性の健康支援を文化として根づかせる視点」
  6. まとめ:女性の健康支援を健康経営につなげるために、今こそ見直したい視点
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1.なぜ今、女性の健康と健康経営が経営課題なのか

日本社会における労働力人口の減少は深刻であり、特に福祉・介護・医療の現場における人材確保は喫緊の課題となっています。こうした流れは、国の政策面からも後押しされています。

経済産業省が公表している「健康経営における女性の健康の取り組みについて」では、月経随伴症状や更年期障害など、女性特有の健康課題が、従業員のパフォーマンス低下や就業継続に影響を及ぼす重要な経営課題であるとされています。あわせて、女性の健康支援を単なる福利厚生としてではなく、健康経営の一環として戦略的に位置づける必要性が示されています。

こうした背景の中で、女性の健康支援は、単なる福利厚生の枠を超え、組織存続のための経営戦略へと意味を変えつつあります。まずは、その構造的な理由を整理します。

参考:経済産業省:健康経営における女性の健康の取り組みについて

福祉・医療分野は女性によって成り立つ産業

厚生労働省のデータによれば、福祉分野における女性従業員の比率は66.9%に達しています。これは他産業と比較しても非常に高い数値であり、福祉・医療法人の運営は、事実上、女性の労働力によって支えられていると言っても過言ではありません。

しかし、この業界構造こそが、逆に課題を見えにくくしている側面もあります。「女性が多い職場なのだから、女性への配慮は自然とできているはずだ」という認識が、意図的な経営介入を遅らせる要因となることも考えられます。

人手不足が加速する中、女性従業員の離職を防ぎ、長く働き続けられる環境を整備することは、サービスの質を維持し、組織を持続させるための生命線です。

月経・妊娠・更年期は個人の問題ではない

これまで、月経随伴症状や妊娠・出産、更年期障害といった健康課題は、個人のプライベートな問題として捉えられがちでした。しかし、これらの不調は、欠勤(アブセンティーズム)だけでなく、出勤していても心身の不調によりパフォーマンスが低下するプレゼンティーズムを引き起こす要因となります。

従業員のパフォーマンス低下は、そのまま組織全体の生産性低下につながります。特にチームケアが基本となる福祉や医療の現場では、一人の不調が周囲の業務負担を増やし、組織全体の疲弊を招くリスクがあります。そのため、女性特有の健康課題への対応は、個人の健康管理ではなく、組織のリスクマネジメントとして捉え直す必要があります。

2.【調査結果】健康経営が浸透しない3つの意外な事実

今回、非営利法人(社会福祉法人、医療法人等)の経営者121名を対象に、女性活躍推進や健康経営に関する意識調査を実施しました。その結果、施策の浸透を阻む「属性による意識の乖離」が浮き彫りになりました。

経営経験が長いほど、制度認知が低い

一つ目の事実は、ベテラン経営者ほど関連制度を知らない傾向があることです。調査において「子育てサポート企業認定(くるみん)」および「女性活躍推進企業認定(えるぼし)」の認知度を確認したところ、経営年数20年以上の層では、それ以下の層と比較して有意に認知度が低いという結果が出ました。

また、この層は「健康支援策の導入が社員のモチベーションや満足度向上につながるか」という問いに対しても、懐疑的な回答を示す傾向が見られました。長年の経営経験に基づく成功体験や固定化した経営観が、近年の健康経営やダイバーシティ推進といった新しい概念へのアップデートを妨げている可能性が示唆されます。

女性が多い職場ほど、健康経営を知らない

二つ目は、さらに逆説的な結果です。女性従業員割合が70%以上の組織では、「健康経営」という言葉自体の認知度が、それ以下の割合の組織よりも有意に低いことが分かりました。

一般的には、女性が多い職場ほど女性の健康に関する感度が高いと思われがちです。しかし、このデータは異なる解釈を示唆しています。すなわち、女性が圧倒的多数を占める職場では、生理休暇や体調不良時の相互フォローなどが、制度として明文化される以前から慣行的に行われてきた可能性があります。そのため、あえて「健康経営」という新しいラベルを付けて戦略的に取り組む必要性を感じていない、あるいはその考え方が現場の実感とずれを感じさせるものとして受け止められているとも考えられます。

小規模組織ほど効果を実感できていない

三つ目は、組織規模による意識差です。従業員数が50人未満の小規模法人では、女性社員への健康支援策を導入しても、「社内コミュニケーションが改善される」「企業イメージが向上する」といった効果を感じにくい傾向が見られました。

小規模組織では、経営者と従業員の距離が近く、個別の人間関係の中で配慮が行われているケースが多いと考えられます。そのため、制度的な介入による組織的な効果(採用ブランディングや全体的な意識改革など)をイメージしにくい側面があります。一方で、従業員数が100名を超える規模になると、組織的な施策の必要性と効果を実感する割合が高まる結果となりました。

これらの調査結果は、女性の健康支援施策が一筋縄ではいかないことを示しています。次章では、この結果を踏まえたアプローチのあり方を考察します。

3.なぜ「一律の研修・施策」が機能しないのか

前述の調査結果が示す最大の教訓は、経営者の属性や組織の状況によって、女性の健康支援に対する認識や課題感が大きく異なるという点です。

画一的なメッセージでは行動変容につながりにくい

多くの支援機関や専門家は、「女性の健康は大切です」「健康経営に取り組みましょう」といった正論を、同じ形で発信しがちです。しかし、こうした画一的なアプローチでは、必ずしも行動変容につながりません。

ベテラン経営者には制度を知らないだけのケースもありますし、女性が多い職場では「すでに対応できている」と受け止められていることもあります。小規模組織では、効果が見えにくいと感じられている場合もあるでしょう。前提条件が異なる中で、同じ研修や資料を提供しても、受け止め方には差が生じます。

施策を機能させるためには、その企業の風土や組織の状況に応じて、意味や価値を丁寧に言語化するという視点が欠かせません。

ベテラン経営層(経営年数20年以上)

単なる制度説明ではなく、長年経営を担ってきた企業の成功事例や、「人材確保」「リスク回避」といった経営の持続性に直結するメリットを提示し、古い経営観をアップデートするきっかけを提供します。

女性比率が高い職場

新しい制度を導入することよりも、現場で自然に行われている配慮や工夫を、自社の強みとして言語化・可視化することを提案します。こうした取り組みを健康経営の実践として外部に発信することで、採用競争力の強化など、経営的なメリットにつながることを伝えるとよいでしょう。

こうしたきめ細やかなアプローチを実現するためには、組織内部だけでは限界があります。そこで重要になるのが、外部専門職の活用です。

4.女性の健康支援を経営施策に変えるために必要なこと

女性の健康支援を、単なる配慮から組織を強くする経営施策へと昇華させるためには、専門的な知見と客観的な視点が必要です。

産業医・保健師が果たす役割

産業医や保健師などの産業保健スタッフは、現場で起きている健康課題を、経営判断に必要な情報として再構成する役割を担っています。個々の相談対応にとどまらず、組織全体の傾向を分析し、エビデンスに基づいた提案を行うことが可能です。

特に、経営者が個人の問題と捉えがちな女性特有の健康課題について、それがどのように組織の生産性やリスクに影響しているのかを専門的に示すことは、認識を変える大きなきっかけとなります。健康経営推進においては、外部専門職を組織開発のための人的投資として活用する視点が求められます。

セミナー・研修が意識変容を生む理由

本調査の一環として実施した動画研修の前後比較では、研修後に「女性社員の健康課題に対する理解が深まった」と回答する経営者が多く見られました。

重要なのは、こうした学びの機会を、特定の立場の人だけに限定しないことです。経営者、管理職、現場スタッフといったポジションにかかわらず、同じテーマについて共に学ぶ場を設けることで、組織内の認識のずれを減らし、共通言語を育てることができます。

女性の健康課題を「誰かの問題」とせず、組織全体の課題として共有することで、日常のコミュニケーションや意思決定にも変化が生まれます。適切なタイミングで、全社的な学習機会を設けることは、組織風土を整えていくための第一歩と言えるでしょう。

5.【産業保健師監修コメント】保健師が語る「女性の健康支援を文化として根づかせる視点」

今回の調査で明らかになった「女性が多い職場ほど健康経営の認知度が低い」という結果は、現場の実感をよく表していると感じます。福祉や医療の現場では、互いの体調を気遣うことが専門職としての倫理観や空気に委ねられており、担当者やタイミングによって支援の濃淡が生じやすいのが実情です。

経営者の皆様には、現場で大切にされてきた配慮や思いやりが、特定の人に依存することなく、継続的に活かされる形になっているかを、一度立ち止まって見直していただければと思います。そのうえで、その良さを仕組みとして支えるための投資を検討することが、組織の安定的な成長につながります。私たち保健師は、そのための通訳者として、現場の声と経営の視点をつなぐお手伝いをしていきます。

保健師は、面談等から得られる質的データや健診結果などの量的データを根拠として、女性の健康を健康課題として捉え、施策として取り組む視点を持っています。ぜひ、場当たり的な対応ではなく、健康施策に取り組み、評価を行うPDCAを回した結果から「制度」や「ルール」へ昇華させ、企業に合った健康支援策としていただきたいと思います。

6.まとめ:女性の健康支援を健康経営につなげるために、今こそ見直したい視点

女性の健康支援は、福祉・医療分野における経営の安定化と直結する重要な課題です。しかし、経営者の経験年数や組織の属性によって、その捉え方には大きな差があることが、本調査から明らかになりました。

「制度を知らない」「効果を感じにくい」といった状況は、必ずしも消極的な姿勢によるものではなく、それぞれの立場や経験に基づく合理的な判断の結果とも言えます。だからこそ、画一的な施策ではなく、組織の状況に応じた丁寧な対話と、産業医や保健師といった専門職による伴走支援が重要になります。

女性従業員が安心して働き続けられる環境を整えることは、結果としてサービスの質を高め、法人の持続的な発展につながる確かな投資と言えるでしょう。

(文・監修/大内 麻友美)
さんぎょうい株式会社/ソリューション事業部 (看護師/保健師・キャリアコンサルタント・第一種衛生管理者・産業カウンセラー他)
看護師の後、働く人の健康管理に携わるため保健師として産業保健業務に従事する。
現職では、さまざまな規模の企業に対して、個別支援を中心としたかかわりから、広く集団に向けて健康情報の発信や、喫煙対策プログラム構築、保健師の導入支援など産業保健サービスに携わる。

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