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​​ストレスチェックの集団分析とは?目的や活用方法を解説


2015年12月からストレスチェック制度の義務化が始まりました。ストレスチェック制度は、職場におけるメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)を目的とした制度です。労働安全衛生法により年1回の実施が義務付けられています。

これにより企業では、ストレスチェックの結果を個々の従業員だけでなく、集団全体の傾向として捉えることで、職場全体のストレス状態や健康状態を把握できるようになりました。

ストレスチェックの結果を個々に分析するだけでなく、集団全体のストレス傾向を分析することで、組織の課題解決や人事施策の策定に活用できます。

本記事では、ストレスチェックの集団分析の意義を解説し、やり方や得られるメリット、活用方法について紹介します。人事労務担当者の方は、ぜひこの分析手法を積極的に参考にしてください。

目次

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ストレスチェックの集団分析とは

ストレスチェックの集団分析とは、従業員が個別に実施したストレスチェックの結果を部署や性別などで集団的に分析することです。職場環境の改善につなげることを目的としています。

現在のところ努力義務ではありますが、ストレスチェック本来の目的である従業員のメンタル不調を未然に防ぐための「職場環境の改善」には不可欠な取り組みといえます。

職場にあるストレス要因の多くは、従業員個人の力だけで取り除くことは困難です。集団単位で分析を行えば、部署間の比較や経年変化の把握、改善策の効果測定が可能で、問題解決のための糸口となります。

ただし、個人を特定される恐れがないような方法で集団分析する必要があります。個人情報を保護しながら集団の傾向を分析することで、はじめてその結果を生産性向上や労働者のメンタルヘルス対策に活用していけるのです。

ストレスチェックの集団分析・代表的な活用方法と注意点

ストレスチェックの集団分析結果はさまざまな場面で活用できます。代表的な活用方法は次の通りです。

  • 職場環境の改善
  • 研修施策の立案
  • 予防的なメンタルヘルス対策

なお、ストレスチェックの集団分析には注意点もあります。

それぞれについて解説します。

職場環境の改善

集団分析の結果から、ストレスの高い部署や従業員属性の傾向を把握することができます。これらの情報をもとに、職場環境の改善が必要な領域を特定し、適切な対策を検討することが可能になります。

具体的には、チームワークやコミュニケーションスキルに関する対策や業務量の見直し、管理職のマネジメント力向上とラインケアの強化などです。組織の課題に合わせた対策を講じられます。

研修施策の立案

集団分析の結果をもとに、部門や従業員属性ごとのストレス傾向を把握し、効果的な研修プログラムを立案することも可能です。

具体的には、マインドフルネスやタイムマネジメントなど、組織の特性に合わせた研修を実施することが考えられます。

予防的なメンタルヘルス対策

集団分析の結果に基づいて、組織全体のメンタルヘルス状態を把握することが可能です。これにより、組織全体の傾向に応じた予防的な対策を検討できます。

たとえば、ストレスが高い部署には、産業医面談による不調者のスクリーニングや受診推奨、職場との連携の実施や、上司やリーダーによるケアの強化などが考えられます。

ストレスチェックの集団分析・活用時の注意点

ストレスチェックの集団分析の結果は、人事に直接活用することはできません。ストレスチェックの集団分析は部門や従業員属性ごとのストレス傾向を把握するためのものであり、異動や配置転換のための仕組みではないからです。結果は個人情報として厳重に管理され、本人の同意なしに人事権に使用することはできないので、注意が必要です。

ストレスチェックの集団分析で得られるメリット

ストレスチェックの集団分析には多くのメリットがあり、組織の課題解決や生産性向上に大いに役立ちます。具体的には、以下の点が挙げられます。

  • 部署間のストレス状況の比較により対策を講じられる
  • 改善施策の効果検証を評価し、今後の対策に反映できる
  • 組織課題に応じた効果的な施策立案が可能になる

集団分析は、効率的な職場環境の改善や経営課題の解決に活用することができます。これを組織運営に活用することで、重要なデータを最大限に利用することが可能です。以下で、集団分析がもたらすメリットについて説明します。

部署間のストレス状況比較により対策を講じられる

各部署間のストレス状況を比較することで、どの部署がどのようなストレスや問題の傾向があるのかを把握する手がかりを得ることができます。

これにより重点的に改善が必要な部署を特定し、効果的な対策を講じられます。

改善施策の効果検証を評価し、今後の対策に反映できる

実施した職場環境改善施策の前後で集団分析を行い、ストレスレベルや、80項目版で測定できる職場の資源やワーク・エンゲイジメントなどポジティブな指標の結果を比較することで、施策の影響を客観的に評価することができます。これにより、どの施策が効果的であったかを確認し、その結果を今後の対策立案や改善に反映させることが可能になります。

組織課題に応じた効果的な施策立案が可能になる

集団分析により部署ごとのストレス傾向を把握することで、部署固有の課題や傾向が見えてきます。

その上で、組織の特性に合った研修プログラムや支援策を立案し、限りある経営資源の最適化が可能になります。

ストレスチェックの集団分析の具体的なやり方

ストレスチェックの集団分析の具体的なやり方は、以下の手順を踏んで行います。

  1. 事業者に集団分析の必要性を理解してもらう
  2. 部署や職種など集団分析単位を決定する(原則1グループ10名以上)
  3. 従業員に「職業性ストレス簡易調査票」または「新職業性ストレス簡易調査票」を受検してもらう
  4. 自動で集団分析結果が集計される
  5. 職場や部署、職種ごとの課題を分析する

なお、ストレスチェックの集団分析の方法はさまざまですが、比較的簡単で、一般的なのは厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」または「新職業性ストレス簡易調査票」を使ったものです。

「職業性ストレス簡易調査票」は、3領域にわたって57項目の設問、20の尺度があります。回答時間はおおよそ10分程度で、受検による負担は少ない点が特長です。

一方、「新職業性ストレス簡易調査票」は設問が80項目あります。23の新しい尺度が加わり42尺度で集団分析が可能です。

「職場の心理社会的な要因」「事業場、部署単位における仕事の資源」「従業員の仕事へのポジティブな関わり」「職場のハラスメント」「ワーク・エンゲイジメント」などを数値化でき、より実践的な職場改善につながります。

「職業性ストレス簡易調査票」と「新職業性ストレス簡易調査票」の使い分けとして、基本は「新職業性ストレス簡易調査票」の活用が有用です。

「新職業性ストレス簡易調査票」のほうが質問項目が多く、より多くの情報を取得できるため、組織運営に活かしやすいでしょう。

ただし、以前のデータとの比較などを重視する場合でも、80項目版に旧来の「職業性ストレス簡易調査票」の57項目が含まれるため、特に困ることはありません。企業の予算や目的、対象者の特性などから、より適切な調査票を選択しましょう。

ストレスチェックの集団分析結果の見方

以下では、ストレスチェックの集団分析で得られた結果の見方を解説します。ここでは一例として「職業性ストレス簡易調査票」から作成されたストレス判定図について紹介します。

ストレス判定図は2つの図で表され、「仕事の量的負担」「仕事のコントロール」「上司の支援」「同僚の支援」という4つの要因がポイントです。

産業保健の現場では、これら2つの図を活用して、集団分析を行うことが一般的です。この分析を通じて各部門のストレス状況を視覚的に把握し、効果的な対策を検討することができます。

【量コントロール判定図】は以下のように「仕事の量的負担」と「仕事のコントロール」をストレス要因として表しています。

引用:職場環境改善スタートのための手引き P.11

仕事量が多く、コントロールが低いほど、右下に傾きストレスが生じやすい環境に置かれているといえます。

【職場の支援判定図】は次の図のように「上司の支援」と「同僚の支援」から健康問題のリスク度合を判定しています。

引用:職場環境改善スタートのための手引き P.12

上司や同僚の支援度が低いほど、左下に健康問題のリスクが高くなります。

上記2つの判定図を点数で表現したのが以下の表です。

引用:職場環境改善スタートのための手引き P.12

総合健康リスクの数値は、職場の仕事のストレス要因が従業員の健康に与える悪影響の目安となります。健康リスクが高いと、職場環境改善などによるストレス管理が必要です。

とくに150点を超えると健康問題が顕在化しやすいため、早急な対応が求められ、120点以上であれば問題が顕在化する前に、4つの要因のどこに課題があるのかを探り、検討する必要があります。総合健康リスクを下げることで、従業員の健康リスクも低減できます。

ストレスチェックの集団分析を効果的に行う秘訣

ストレスチェックの集団分析を成功させるには、いくつか成功の秘訣があります。具体的なものを4つ紹介します。

  1. 経営者・経営層の理解と協力を得る
  2. 既存の取り組みを活用する
  3. ストレスチェックの受検率を上げるための取り組み
  4. 職場の長所に目を向ける

それぞれの詳しい内容は以下の通りです。

1.経営者・経営層の理解と協力を得る

経営者や経営層にストレスチェックの集団分析の目的を理解してもらうことは、企業全体の改善活動をポジティブにするために重要です。

従業員が健康であることは、魅力ある人材の確保や従業員のパフォーマンス向上など、経営上も大きなメリットがあることを伝え、理解を得ましょう。

2.既存の取り組みを活用する

すでに事業場で行っている取り組みを活用することで、職場環境改善への取り組みを効果的に進められます。

業務や経営戦略に関連した活動を活用すれば、従業員への周知が容易になり、スムーズな開始が期待できます。既存の活動に職場環境改善を組み込むことで、受け入れやすくなり、より実効性の高い取り組みとなるはずです。

3.ストレスチェックの受検率を上げるための取り組み

正確な集団分析を行うためにはストレスチェックの受検率を上げる必要があります。この項目では、ストレスチェックの受検率を上げるための2つの取り組みを紹介します。

1つ目は、ストレスチェック制度の呼称を変更することです。身近で前向きなイメージをもたせることで、従業員がストレスチェックを受け入れやすくなります。

たとえば、以下のように呼称を変更できます。

ストレスチェック → 「いきいき診断」「健康サポートチェック」

職場環境改善活動 → 「職場ドック」「いきいき職場づくり」

さらにキャラクターを活用するなどの工夫で、従業員がストレスチェックや職場環境改善活動を身近に感じ、積極的に参加することが期待できます。

2つ目は、受検のていねいな奨励です。社内の受検状況について、制度担当者や実施事務従事者はストレスチェック実施事業者から情報提供を受け、未受検の従業員にメール等で受検を勧奨することも有効です。

また、各職場の管理職から朝礼等のミーティングで全員に向けて受検を促すようにしてもらうというアプローチは、手間がかかりますが、有効です。このように現場の協力を得ることにより、受検率が90%後半に上がったという企業もあります。この場合、受検を促すことは問題ありませんが、業務命令にすることは不可ですので、注意しましょう。

4.職場の長所に目を向ける

集団分析では全国平均や職場全体の平均と比較して欠点に目を向けがちですが、長所を見つけることも重要です。今ある長所に着目し、「さらにできそうだ」という前向きな気持ちを引き出すことから始めましょう。

さんぎょうい株式会社がサポートしている企業において、たとえば、同じような業務をしている部署Aと部署Bにおいて、明らかに部署Aのストレスチェックの結果が良かった場合、部署Aを良くしている要因を調査し、その要因を部署Bにも展開できないか、というような取り組みを行うことはよくあります。

長所を活かし、少しずつ改善に取り組むことで、従業員のやる気と実行力が生まれます。課題を明確にしつつ、職場の強みを最大限に活かしてできることから着実に実践することで、効果的な職場環境の改善が可能です。

肯定的な視点をもち、前向きなアプローチをすることが成功のカギといえます。

まとめ:ストレスチェックの集団分析を最大限に活用するために

ストレスチェックの集団分析を最大限に活用するには、多角的なアプローチが必要です。まず経営者層の理解と協力が不可欠です。

経営層が健康経営の重要性を認識し、従業員の健康がもたらす経営メリットを理解することで、企業全体が改善活動に前向きになれるからです。

次に従業員の理解と参加を促進することが重要です。既存の取り組みをうまく活用したり、制度の呼称を工夫して身近に感じられるようにしたりすることで、従業員の関心を高められます。

また、ストレスチェックの受検率を上げることが重要です。受検率が向上すれば、より正確な集団分析が可能となり、組織全体のストレス状況をより精密に把握できます。

さらに、職場の長所に目を向けることで前向きな気持ちを引き出し、改善に取り組むモチベーションを高められます。

これらの取り組みを通じて、経営層の理解・従業員の受け入れ・専門家の協力など、多面的なアプローチを実現できます。その結果、ストレスチェックの集団分析を最大限に活用し、組織の健全化と業績向上につなげることができます。

次のステップとしては、自社の産業保健体制を確認し、ストレスチェックの集団分析を活用した具体的な改善施策に取り組むことが重要です。

弊社では産業保健のキーマンとなる産業医の紹介に加え、臨床心理士によるストレスチェックの集団分析コンサルサービスも提供しています。従業員の健康を守ることに力を入れたい担当者様はぜひお気軽にお問い合わせください。

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