産業医のスポット契約とは?メリットや費用相場、選び方を解説
産業医を選任する余裕がない、けれども従業員の健康管理を強化したいと考えている企業や組織には、産業医のスポット契約がおすすめです。
本記事で、産業医のスポット契約とは何か、費用相場やメリット、産業医の見つけ方などを紹介します。
目次
- 産業医のスポット契約とは
- 産業医のスポット契約の費用相場
- スポット契約で産業医に依頼できる業務内容
- 産業医のスポット契約を利用するメリット
- 産業医のスポット契約を利用する際の注意点
- スポット契約をしたい場合の産業医の見つけ方
- まとめ:産業医のスポット契約を活用して健康管理を強化しよう
1.産業医のスポット契約とは
産業医のスポット契約とは、必要な時に産業医に対応してもらう契約形態のことです。
通常、産業医は一度契約すると継続して一定期間の業務を依頼することになります。一方、スポット契約の場合は必要なときに1回から利用できるのが特徴です。
例えば、「小規模事業者で産業医を選任していないが、産業医面接が必要になった」「予算が厳しいため必要なときだけサービスを利用したい」「既に選任している産業医の時間が足りず業務を部分的にお願いしたい」などの場合に、スポット契約が役立ちます。
ただし、事業場で常時使用する従業員数が50人以上の場合は、産業医を選任しなければなりません。産業員の選任義務がある場合は、スポット契約のみでは対応できない点に注意が必要です。
産業医の契約形態
産業医の契約形態には、以下のような種類があります。
直接契約 | 企業と産業医が直接契約を結ぶこと | 専属契約 | 企業と産業医が雇用契約を結び、常勤の専属産業医として従事してもらうこと |
嘱託契約(業務委託契約) | 企業と産業医が業務委託契約を結び、非常勤の嘱託産業医として従事してもらうこと | ||
間接契約 | 企業が産業医の紹介や派遣を行う企業(以下、産業医紹介サービス)と契約を結ぶこと |
スポット契約を締結する場合は、嘱託契約、あるいは産業医紹介サービスとの間接契約になるのが一般的です。
産業医の選任義務
事業場に常時50人以上の労働者がいる場合は産業医の選任義務が発生し、事業場の規模によって、選任する産業医の形態や人数が異なります。
事業場で常時使用する従業員数 | 選任する産業医の人数 | 専属産業医の選任義務 |
50人未満 | 選任義務なし | |
50~499人 | 1人 | なし |
500人~999人 | 一定の有害業務(特定業務)に常時500人以上の労働者を従事させる場合、あり | |
1000人~3000人 | あり | |
3001人以上 | 2人 |
参考:厚生労働省「産業医について〜その役割を知ってもらうために〜」
なお、産業医の選任義務がない50人未満の事業場についても、従業員の健康管理等は努力義務とされています。健康管理を行うためには、必要な専門知識を有する医師などに依頼して、健康管理を推進することが大切です。
産業医のスポット契約が有用な事業場
産業医のスポット契約の利用が有用な事業場は、以下の2つです。
- 産業医の選任に関する法的要件をすでに満たしている事業場
- 産業医の選任義務がない事業場
常時50人の従業員を使用しているものの産業医を1人も選任していない場合は、スポット契約ではなく産業医を選任する必要がありますのでご注意ください。
一方、すでに産業医を選任しているが一時的に産業医の数を増やしたい場合は、スポット契約の活用が有用です。また、産業医の選任義務がない50人未満の小規模な事業場では、スポット契約のみを利用することも可能です。
2.産業医のスポット契約の費用相場
産業医のスポット契約を利用する場合、費用は時間や回数、業務内容や依頼先などによって大きく異なります。
面談を1回依頼する場合、費用は数万円程度が目安です。
3.スポット契約で産業医に依頼できる業務内容
スポット契約で産業医に依頼できる主な業務内容は、以下の通りです。
- 産業医面談の実施
- 健康診断実施後の措置
- 休職・復職者への対応
- ストレスチェックの実施者・高ストレス者面談
それぞれの業務内容について解説します。
産業医面談の実施
1つ目は、産業医面談の実施です。産業医面談には以下の5つの種類があり、事業者には産業医面談の実施が求められます。
- 健康診断の結果、異常所見が認められた従業員に対する面接指導
- 長時間労働者に対する面接指導
- ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された従業員に対する面接指導
- 従業員の復職に関する面談
- 従業員から希望があった場合に実施する健康相談
産業医面談は、従業員の体調やメンタルヘルスを正しく把握し、一人ひとりに合ったアドバイスをするために重要です。
健康診断実施後の措置
2つ目は、健康診断実施後の措置です。
労働安全衛生法により、事業者には従業員に対して定期的な健康診断を実施することが義務付けられています。健康診断の結果、異常所見が認められた従業員に対しては、保健指導の実施や就業上必要な措置を講じることが必要です。
産業医は、健康診断等の結果、異常の所見があると診断された労働者について、事業者に対して就 業上の措置に関する意見を述べる役割を担います。(労働安全衛生法第 66 条の 4)
もしも健診結果のみで就業上の措置を判断するのが難しい場合には、従業員との面談を行うことで、状況をより詳しく理解できます。
また、健診の結果、生活習慣病のリスクが高いなど健康保持に特に努める必要があると認められる従業員に対しては、保健指導を実施します。(労働安全衛生法第66条の7)
たとえその時点で自覚症状がなかったとしても、改善すべき生活習慣を知り、改める良い機会となることを従業員へ伝え、実施を促しましょう。
休職・復職者への対応
3つ目は、休職・復職者への対応です。
事業者は、休職や復職を希望する従業員に対して産業医面談を実施する必要があります。そして、面談結果や医療機関の診断書をもとに産業医が意見書を作成し、意見書の内容を参考に事業者が休職や復職の判断を行います。
休職者がスムーズに復職するためにはどのような措置を講じるべきか、事業者に助言するのも産業医の役割です。
ストレスチェックの実施者
4つ目は、ストレスチェックの実施です。
ストレスチェックは、常時50人以上の従業員を使用する事業場に対して実施が義務付けられているものです。50人未満の事業場については、努力義務とされています。
ストレスチェックを実施できるのは、医師や保健師、その他検査を行うために必要な知識についての研修を修了した歯科医師や看護師、精神保健福祉士または公認心理師です。
厚生労働省は、事業場で選任している産業医を実施者とするのが最も望ましいとしています。何らかの事情で選任している産業医に依頼できない場合や、産業医を選任していない場合は、スポット契約を利用しましょう。
参考:厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
労働衛生教育や健康教育の実施
5つ目は、労働衛生教育や健康教育の実施です。
産業医による労働衛生教育を行うことで、社内全体の衛生意識が高まり、従業員が働きやすい環境の整備につながります。
また、従業員への健康教育を実施することで、健康への意識や知識が高まり、予防的な生活習慣の獲得や行動の変容に繋がります。その結果、労働災害やメンタルヘルス不調者の発生防止につながります。
労働衛生教育や健康教育は、法律で義務付けられているものではありません。しかし、従業員の健康管理を強化して健康経営を推進するためにも、産業医に依頼して労働衛生教育や健康教育を実施することが大切です。
4.産業医のスポット契約を利用するメリット
産業医のスポット契約を利用するメリットは以下の通りです。
- 無駄なコストを抑えられる
- 課題やニーズに柔軟に対応できる
- 従業員のケアを強化できる
それぞれ解説します。
無駄なコストを抑えられる
スポット契約では、業務を必要な分だけ依頼できるため、コストを抑えられるのがメリットです。
実態として年に数回発生する面談のみを都度依頼したい企業が、産業医を選任して一定期間費用を支払い続けるのは、求める内容に対してコストが膨れすぎる可能性があります。従業員数が少なく、必要なときのみ産業医に業務を依頼したい事業者であれば、スポット契約で費用を抑えることが可能です。
ただし、スポット契約の利用頻度によっては、選任した方がコストを抑えられる場合があります。どちらが自社に適しているか、見積もりを作成して判断しましょう。
課題やニーズに柔軟に対応できる
スポット契約は、事業者がそれぞれ抱える課題やニーズに柔軟に対応できるのも魅力です。
例えば、以下のような課題やニーズを抱えている場合、スポット契約で解決できることがあります。
- 産業医を選任しているが、別の専門の医師に面談を依頼したい
- 選任している産業医にストレスチェックへの対応を断られたため、ストレスチェック業務のみを依頼したい
- 産業医を選任していないグループ会社や関連会社の面談を依頼したい
- 長時間労働者や高ストレス者など、一時的に面談者が増え、選任している産業医だけでは手が回らない
従業員のケアを強化できる
スポット契約を活用することで、従業員の心身のヘルスケアを強化できます。特に、精神面のケアは重要です。従業員のメンタルヘルスが悪化してしまうと、重大な事故の発生や休職・離職につながってしまう恐れがあります。
すでに産業医を選任している場合でも、スポット契約を活用して従業員のケアを強化し、働きやすい職場環境を整えることがおすすめです。
5.産業医のスポット契約を利用する際の注意点
産業医のスポット契約を利用する際は、以下の点に注意が必要です。
- 同じ産業医に依頼できるとは限らない
- コストが割高になる可能性がある
- 担当の産業医を選ぶことができないケースが多い
同じ産業医に依頼できるとは限らない
産業医紹介サービスや産業医事務所を利用する場合、毎回同じ産業医に依頼できるとは限りません。
産業医が毎回変わると、従業員と産業医の信頼関係を構築するのが難しく、従業員が安心して相談できなくなってしまう可能性があります。
コストが割高になる可能性がある
利用回数や時間によっては、スポット契約の方がコストが割高になる場合があります。
定期的に産業医に業務を依頼したい場合は、スポット契約ではなく産業医を選任する、あるいは一定期間の嘱託契約を結ぶ方がコストを抑えられます。
6.スポット契約をしたい場合の産業医の見つけ方
ここでは、スポット契約を利用したい場合の産業医の見つけ方を、それぞれのメリット・デメリットとともに紹介します。
- 近隣の医療機関に相談する
- 自社で利用している健診機関から紹介してもらう
- 地域の医師会に相談する
- 地域産業保健センターに相談する
- 産業医紹介サービスを利用する
近隣の医療機関に相談する
1つ目は、普段から付き合いがある近隣の医療機関から紹介を受ける方法です。医療機関に産業医の資格を持った医師がいる場合、その医師にスポット契約を依頼できる可能性があります。
信頼できる医療機関であれば、安心して依頼できるのがメリットです。
一方、その医療機関に対応できる産業医がいない場合は、紹介は受けられません。また、繁忙期は対応できない可能性があります。
自社で利用している健診機関から紹介してもらう
2つ目は、自社で利用している健診機関から紹介してもらう方法です。健康診断の実施とセットで依頼できるため、健康診断や健康診断後に必要な措置をスムーズに手配できます。
一方で医療機関に相談する場合と同様に、対応できる産業医がいなかったり、繁忙期は対応を断られたりする可能性に注意が必要です。
地域の医師会に相談する
3つ目は、地域の医師会に相談して産業医を紹介してもらう方法です。医師会は、地域のネットワークを活かした産業医の人脈に強みがあります。無料で相談できるのもメリットです。
一方、医師会はあくまでも産業医の紹介のみを行うため、交渉や契約といった手続きは事業者が行う必要があります。
地域産業保健センターに相談する
4つ目は、地域産業保健センターに相談する方法です。従業員50人未満の小規模な事業場に適しています。
地域産業保健センターは、研修やメンタルサポート、治療と仕事の両立支援などの産業保健に関する情報提供といったサービスを提供する公的機関です。従業員50人未満の小規模な事業場が対象であり、無料で利用できます。
ただし、従業員50人以上の事業場は利用できない点や、利用回数や新規の受付に制限がある場合がある点には注意が必要です。
産業医紹介サービスを利用する
5つ目は、産業医紹介サービスを利用する方法です。産業医紹介サービスでは、多数の産業医を登録しています。その中から事業者のニーズや課題に応じて、適切な産業医を紹介してくれるのが魅力です。
産業医の紹介に特化しているため、自社に合った産業医を見つけてスピーディーに依頼したい場合に適しています。
なお、サービスの利用には費用がかかる点に注意が必要です。費用や料金体系を細かくチェックしましょう。
7.まとめ:産業医のスポット契約を活用して健康管理を強化しよう
産業医のスポット契約は、産業医が必要なときに1回から利用できる契約形態です。
産業医の選任義務がないが健康管理を強化したい場合や、すでに産業医を選任しているがプラスで業務を依頼したい場合などに利用できます。スポット契約を活用すれば、専門性を重視した面談・相談などの事後措置の強化も可能です。
一方、スポット産業医は継続的な対応は行いません。自社の風土や労働環境などを細かく理解してもらい、職場環境の改善に向けたアドバイスを受けたい場合は、スポット契約よりも選任契約のほうが適しています。依頼したい業務内容を考え、検討することが大切です。
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