建設業の2024年問題とは?影響や取り組むべき6つの施策を解説!
建設業の2024年問題とは、2024年4月1日の「働き方改革関連法」適用によって建設業が抱えると想定される、さまざまな問題のことです。人手不足や長時間労働問題が深刻化している建設業も、2024年に向けて働き方改革に対応する必要があります。
本記事では、建設業における2024年問題とは何か、影響や働き方改革のポイントを解説します。建設業が取り組むべき施策も6つ紹介しているため、2024年問題の対応にあたって、ぜひ参考にしてください。
目次
- 建設業における2024年問題とは
- 建設業が理解すべき働き方改革の2つのポイント
- 建設業が働き方改革に取り組むべき理由
- 建設業が2024年問題に対応するための施策6選
- まとめ:建設業は労働環境の改善と生産性の向上で2024年問題に対応しよう
1.建設業における2024年問題とは
建設業における2024年問題とは、2024年4月1日より適用される「働き方改革関連法」の影響で発生すると考えられる、建設業の諸問題のことです。
働き方改革関連法によって建設業が受ける影響
働き方改革関連法が適用されることにより、建設業の人手不足問題が深刻化し、人件費が増大することが予想されます。
働き方改革関連法では、罰則付きの時間外労働の上限規制や中小企業割増賃金率の引き上げなどが適用されるのがポイントです。詳しい内容は後述します。
罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されると、従業員が残業できる時間が減るため、人手不足問題がより深刻になることが予想されます。
また、中小企業割増賃金率の引き上げが適用されると、残業代として支払う額が増え、企業の負担が増大する点も見逃せません。
このように、働き方改革関連法は、建設業に大きな影響を与えます。2024年に備え、人手不足や長時間労働問題を是正する必要性が生じているのです。
働き方改革関連法の猶予期間
「働き方改革関連法」が施行されるまで、建設業や物流業界などの一部の業界では、5年間の猶予期間が設けられていました。これらの業界は、業務の特性や取引慣行の課題が長時間労働の背景にあることから、働き方改革関連法が定める時間外労働上限規制を遵守できる体制を、すぐに整えることが難しいと判断されたためです。
「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」は、2019年4月より施行された法律です。
5年間の猶予期間が終わり、建設業でも働き方改革関連法が適用されるのが、2024年4月1日なのです。
2.建設業が理解すべき働き方改革の2つのポイント
働き方改革のうち、建設業が理解すべき以下の2つのポイントは以下の通りです。
- 罰則付きの時間外労働の上限規制
- 中小企業割増賃金率の引き上げ
それぞれ解説します。
罰則付きの時間外労働の上限規制
罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されることにより、時間外労働の上限規則を超過した場合、労働基準法違反として罰則が科せられる可能性があります。
36協定(一般条項)
36協定を締結することにより可能となる時間外労働の上限規制の時間は、原則月45時間、年360時間です。
36協定とは、「時間外・休日労働に関する協定届」のことです。企業が法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を命ずる際に、労働組合や労働者の過半数代表者などと協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
なお、時間外労働とは労働基準法で定められた「法定労働時間」、つまり1日8時間および週40時間を超過した分のことです。労働契約によって企業が定める「所定労働時間」を超過した分ではない点に注意しましょう。
特別条項付き36協定
やむを得ない事情で時間外労働の上限規制を超過してしまう場合は、「特別条項付き36協定」を締結する必要があります。
特別条項をつけると、繁忙期や人員不足、緊急事態などの問題が発生した際に、時間外労働の上限を以下のように変更して対応できるようになります。
時間外労働の上限は年720時間(休日労働を含まない)
時間外労働が月45時間を超えられるのは年6ヶ月まで
休日労働を含み、時間外労働の合計は月100時間未満、2~6ヶ月の平均が月80時間以内
ただし、建設の事業のうち災害時における復旧や復興の事業については、2024年4月1日以降も、時間外労働・休日労働の合計は月100時間未満、2~6ヶ月の平均が月80時間以内という上限規則は適用されません。
特別条項付き36協定で時間外労働の上限を延長できるのは、年に6回までです。また、やむを得ない事情が発生した場合のみ適用できる、特別なものである点を理解しておきましょう。
中小企業割増賃金率の引き上げ
中小企業割増賃金率の引き上げとは、月60時間を超える時間外労働に対する割増率が、従来の25%から50%へと引き上げられたことです。
もともと、中小企業割増賃金率の引き上げは2010年の労働基準法改正によって始まりました。しかし、これまでは大企業のみに適用されており、中小企業に対しては猶予期間が設けられていたのです。
しかし、2023年4月1日より、中小企業についても適用が開始されました。時間外労働が常態化している事業場では、残業代負担が増加し、人件費が増大してしまいます。従業員の健康を守ることはもちろん、企業の負担を軽減するためにも、時間外労働の是正が欠かせません。
3.建設業が働き方改革に取り組むべき理由
建設業が働き方改革に取り組むべき理由は、建設業をとりまく以下のような現状にあります。
- 人手不足や後継者不在問題が深刻化している
- 長時間労働が常態化している
ここでは、建設業の実態をデータとともに解説します。
人手不足や後継者不在問題が深刻化している
建設業は、人手不足や後継者不足問題が深刻な業界の1つです。
そもそも、日本では少子高齢化によって生産年齢人口(15~64歳の人口)が減少しており、さまざまな業界が人手不足に悩んでいます。
中でも、建設業では人手不足が進んでいるのが現状です。国土交通省によると、1997年には685万人であった建設業就業者数は、2021年には482万人まで減少しています。
同時に、後継者不足問題も深刻です。帝国データバンクの調査によると、建設業の後継者不在率は63.4%でした。これは、全業種の中で最も高い数値です。
参考:帝国データバンク「後継者不在率、初の 60%割れ~ 後継候補「非同族」が初のトップ、事業承継は「脱ファミリー」化が加速 ~」
建設業で人手不足問題が深刻化している原因
建設業で人手不足問題が深刻化している原因としては、高齢化のほかに以下が挙げられます。
・給与水準があまり高くない
・「長時間労働」「仕事がきつい」などのネガティブなイメージを持たれている
・円安により外国人労働者の確保が難しくなっている
特に、給与水準があまり高くない点や、労働環境に関するネガティブなイメージを持たれている点は、見逃せない問題です。
人手不足問題を解消するためには、若手人材が就業したいと思えるような魅力的な労働環境を整備し、多様な人材を確保して育成することが求められます。
長時間労働が常態化している
建設業では、多くの職場で長時間労働が常態化しており、働きやすい環境を得にくいことが現状です。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和5年6月分結果速報」によると、産業別の1ヶ月あたりの総実労働時間は、以下の通りでした。
建設業 | 171.1時間 |
製造業 | 164.7時間 |
情報通信業 | 162.8時間 |
卸売業,小売業 | 134.4時間 |
飲食サービス業等 | 90.3時間 |
出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和5年6月分結果速報」
このように、ほかの業種と比較しても、建設業の労働時間が長いことがわかります。
建設業で長時間労働が常態化している原因
建設業で長時間労働問題が常態化している原因としては、人手不足問題のほかに、以下が考えられます。
- 長時間労働の防止よりも工期の遵守が優先されるため
- 顧客のイレギュラーな要望への対応も求められるため
- 事務書類の処理に時間がかかるため
建設工事では工期が定められており、工期を守ることが優先される傾向にあります。工期が短く設定された場合は、長時間労働によって対応しなければなりません。加えて、建設工事の進捗が、天候に大きく左右されてしまう点も見逃せません。雨や雪が続いて作業に遅れが生じると、長時間労働で遅れをカバーする必要があります。
また、建設業のような受注型のビジネスでは、顧客のイレギュラーな要望にも無理をして対応しなければならないケースがあります。顧客を優先するという考え方から、突然の工期短縮や仕様変更といった要望を断れず、結果として長時間労働になってしまうことが少なくありません。
さらに、建設業では事務書類の処理に時間がかかり、長時間労働が発生しているのも難点です。図面や施工計画書、材料承認など多くの書類を作成しなければならず、現場監督はデスクワークにも時間を割く必要があります。
4.建設業が2024年問題に対応するための施策6選
ここでは、2024年問題や働き方改革に向けて、建設業が取り組むべき施策を6つ紹介します。
- 勤怠管理システムを導入する
- 適切な工期を設定する
- 完全週休2日制を導入する
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)に加入する
- 社会保険に加入する
- IoTやICTの活用で生産性を向上させる
勤怠管理システムを導入する
勤怠管理システムの導入は、労働時間を適正に把握する上で効果的です。
従業員からの自己申告で、労働時間を管理しているケースも少なくないでしょう。しかし、自己申告では労働時間を過少に申告する場合も考えられます。労働時間を必ずしも正確に把握できるとは限らないのが難点です。
時間外手当や控除の正確な計算のためだけでなく、2019年4月には労働安全衛生法が改正され、長時間労働者への産業医等による面接指導を確実に実施するために、労働時間の状況を客観的に把握することが義務づけられました。長時間労働との関連性が高いとされる脳・心臓疾患の発症を予防するなど健康管理の側面からも、客観的な方法による確認が求められています。
勤怠管理システムであれば、労働時間を正確に記録できます。労働時間の集計を自動化できるため、人事や経理業務の負担を軽減できるのもメリットです。さらに、累計残業時間を随時確認できたり、有給休暇の取得状況や一定期間の平均労働時間も簡単に管理できたりします。
適切な工期を設定する
適切な工期を設定することは、建設業の長時間労働問題を解決するために欠かせない取り組みです。
国土交通省は、「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」を発表し、適切な工期を設定し、施工時期を平準化することを求めています。
このガイドラインは、従業員の休日や資機材調達などにかかる期間のほか、現場の後片付け期間や作業不能日数などを考慮した上で、実現可能な工期を設定するよう定めているのがポイントです。
さらに、発注者支援を行える外部機関を活用して、適切な工期を設定できる体制を整えることが望ましいともされています。
ガイドラインに従って、発注者や元請け企業の理解や協力を得ながら、従業員が無理なく働ける工期を設定することが大切です。
完全週休2日制を導入する
罰則付きの時間外労働規制に対応し、労働環境を改善するためには、完全週休2日制を導入しましょう。
工期の延長や、その分のコストの発生がネックで、完全週休2日制を導入できていない企業は少なくありません。しかし、2017年より共通仮設費と現場管理費、2018年より労務費と機械経費(賃料)について、現場閉所の状況に応じて補正係数を乗じて必要経費を計上できるようになりました。2021年度は、労務費・機械経費(賃料)・共通仮設費・現場管理費の補正係数が継続されています。
つまり、週休2日の実施に伴う必要経費を計上できるようになっているのです。
ほかにも、施工時期の平準化や適正な工期設定などを通じて、国土交通省は週休2日対象工事を拡大するための環境づくりを進めています。
建設キャリアアップシステム(CCUS)に加入する
建設キャリアアップシステム(CCUS)に加入することも有効です。
建築キャリアアップシステムとは、国土交通省が運営する、技能者の資格や現場での就業履歴といった、従業員や建設業従事者の情報を蓄積できるシステムです。能力評価と適正な待遇・給与の支払いにつなげることを目的としており、国土交通省は建設キャリアアップシステムへの加入を推進しています。
建設キャリアアップシステムに登録するメリットは、以下の通りです。
<企業にとってのメリット>
- 優秀な人材を確保しやすくなる
- 従業員の経験や能力を取引先にアピールできる
- 建設キャリアアップシステムに対応している現場として、取引先や採用候補者などにアピールできる
- 経営事項審査の加点対象になる
- 登録したデータを施工台帳や作業員名簿に反映でき、効率的に書類を作成できる
<従業員にとってのメリット>
- 自身の経験や能力が客観的かつ正当に評価される
- 自身の経験や能力を簡単に証明できる
- 建設業退職金共済の手続きがスムーズになり、適切な退職金を受け取れるようになる
- スキルアップのモチベーションが高まる
- 専用の「特別講習Eラーニング」を受講できる
社会保険に加入する
採用候補者に選ばれる労働環境を作るためには、社会保険に加入することも大切です。
建設業には、社会保険に加入していない事業者が多いという課題があります。そこで、国土交通省は以下のような社会保険加入対策を推進しています。
- 社会保険に未加入の企業に建設業の許可・更新を認めない
- 社会保険加入業者のみに施工依頼をするよう発注者に求める
- 建設キャリアアップシステムを活用し、社会保険加入の確認が取れない技能者は現場に入場できないようにする
このように、社会保険への加入は国も重要視している取り組みであり、建設業の各事業者には対応が求められます。
IoTやICTの活用で生産性を向上させる
人手を確保できる労働環境づくりと同様に大切なのが、生産性の向上です。生産性が低い状態で長時間労働を是正するのは難しいでしょう。
そのためには、IoTやICTの活用が効果的です。
IoT(Internet of Things)は、さまざまなモノをインターネットに接続することにより、遠隔での操作や状況確認を可能にすることです。建設業におけるIoTの活用例としては、以下が挙げられます。
- ヘルメットにウェアラブルカメラを取り付け、現場の状況を遠隔でも管理できるようにする
- タブレットによるペーパーレス化によって、どこからでも書類を閲覧し、効率的に管理できるようにする
また、ICT建機の活用も欠かせません。ICT(Information and Communication Technology)建機とは、マシンコントロールやマシンガイダンスの機能を搭載した建機のことです。自動制御や操作補助などが可能であり、作業効率や安全性を高められることが魅力です。
国土交通省は、ICT建機の活用を促すため、「i-Construction」プロジェクトを推進しています。積算基準を改定し、新たにICT建機のみで施工する単価を新設することにより、ICT建機の稼働実態に応じた積算・精算が可能となりました。
5.まとめ:建設業は労働環境の改善と生産性の向上で2024年問題に対応しよう
建設業では、2024年より適用される働き方改革関連法に対応することが急務です。労働環境を改善して人材を確保できるようにすることや、生産性を向上させ、人手不足に対応することが求められています。
そのためには、労働環境の実態を把握して改善するほか、政府が進める建設キャリアアップシステムに加入したり、IoTやICTを活用したりすることが大切です。できる取り組みから着実に進め、2024年に備えましょう。
働き方改革を推進する上で基本となるのが、従業員が生き生きと働ける労働環境を作ることです。そのためには、専門知識を持ったプロの力を借りることも大切です。産業医は、従業員が健康かつ快適な環境で働けるよう、指導や助言を行います。
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